中高年の為のボルダリング入門

2000年5月31日記
6月 4日改
2010年9月 8日改

 目 次

  1. 始めに
  2. ボルダリングとはなにか
  3. ボルダリングで使われる言葉について
  4. どこでやるのか
  5. どうやってやるのか
  6. ボルダリングの色々な楽しみ方
  7. ボルダリングの上達方
  8. ボルダリングの危険性
  9. 終わりに
  10. 付録 :中高年者のボルダリングの一つの楽しみ方について ('10/09/08追加)
          (クラッシュパッドについて考える)

  1. 始めに
  2.  現在は中高年の登山がブームになっている。深田久弥氏の日本百名山がその火付役になったのだろうか、それとも世の中皆んながお金持ちになって仕事が暇になったせいなのだろうかは知らないが、どこの山に行っても中高年の集団が闊歩している。

     クライミング界もご多聞にもれず、結構中高年のクライマーが活躍している。中高年限定のクライミング集団も存在する。しかし、その中で、ボルダリングだけはどういう訳か中高年者が少ない。御岳等に行くと、また、ジムのボルダー壁にも、中高年者がいない訳ではないが、その殆どはルートクライミングの練習の為、一寸した遊びとして、等と言う人達である。純粋にボルダリングに打ち込んでいる中高年者は少ないのが現状である。

     なぜだろう。曰く、ボルダリングは瞬発力が必要だ、指の力が無いとだめだから、若者じゃないと出来ない、等など。でも、本当にそうだろうか。確かに腰を傷めたり、骨折の確率は若者よりも高いかも知れないが、また、絶対パワーはルートクライミングよりも必要かも知れないが、それは、高難度な課題を登ろうとすれば確かにそうなのかもしれないが、その分持久力はいらないのである。歳相応、力相応の課題を楽しむ限り、そんな大きな力はいらないのである。5km、10km走ろうと思えばチンタラ走ってもすごくきついが、100m、200mならばそこそこ走ってもそんなにきつくはない道理である。

     最近は分厚い大きなマットも有るので、中高年の財力を活かしてそれらを使えば良いし、腰が恐ければ、格好など気にせず、腰ベルトを着用すれば良い。それでそれらの怪我の大部分は回避する事が出来るのである。おまけに恐怖心まで屈伏出来るのである。と思う。

     ボルダリングは、競技としては中高年者には向いていないかも知れないが、遊びとしてならば十分に中高年者に向いているのである。中高年の皆さんは、ただ、見た目や、最近の若者の持つ雰囲気やファッションに惑わされて、食わず嫌いになっているだけなのではないだろうか。やってみれば結構面白いものなのである。

     そこで、それらのボルダリングの楽しさを真に理解していないと思われる中高年の人達に、ボルダリングの楽しさ、その実践の仕方等を、未だ駆け出しボルダラーではあるが、小生が、少しだけお話してみようと、この一文を認める次第である。

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  3. ボルダリングとはなにか。
  4.  ボルダリングとは、靴、チョークパウダー以外の道具は一切使わず、飛び降りても或は落ちても安全と思われる岩、つまり、ボルダーを自分の手と足等の身体だけを使って登る行為をいう。但し、安全の為、着地地点に衝撃吸収用のマットを使用する事は許されている。従って、墜落防止の為のロープを使用する事はしないし、もし使用した場合は、それがたとえボルダーを登ったとしても、それはもうボルダリングとは言わない。但し、ロープを使用して練習を重ねた後に、ロープをはずして登った場合は一応ボルダリングと認められている。

     ただこれは一応の定義であり、記録を他人と共有する場合の定義であって、本来ボルダリングにそんなに厳密な普遍的な定義が有る訳でもないし、有っても、それに従わなければならない義務も無い。要は自分が納得し、楽しめればそれで良いのである。とはいっても、自分が登れないからと勝手に岩のホールドやスタンスを加工したり、作り出してしまうことや、反対に自分が登ってしまったから他人が登れないようにと、ホールドやスタンスを削ってしまう事(これをチッピングおよびグルーイングという)等は決して行ってはならない。また、場所によってはチョークパウダーも使用が禁止されている所もあるので、そのボルダリングエリアのルールにも従わなければならない。これは最低限のマナーである。

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  5. ボルダリングで使われる言葉について
  6.  話しを始める前にちょっと、ここで使用する用語を中心に、ボルダリングで使われる主な用語について解説をしておこう。
    1)ボルダーとは
     本来は氷河が運んできた大きな石ころをいうらしいが、今は、高さがせいぜい4〜5m位の小さな石をいっている。もう少し大きくなるとハイボルダーとかハイボールと言ったりする。

    2)ボルダリングとは
     そのボルダーを自分の手と足だけで登る事。上記のとおりである。そして、その飛び降りても安全な高さとは大体4m位と解されている。でも、5m、6m位のボルダーを怪我をするかもしれないと言う恐怖に打ち勝って登る快感は、これは、落ちたら死ぬかもしれないという、そこまで強烈ではないが、これまたなんとも言えないものである。

    3)ホールド、スタンスまたガバ、カチ、スローパーとは
     石を登る時に手掛かりとする所。スタンスとは足掛かりとする所をいう。
     ガバとは、ガバっと持てる大きな持ちやすいものを言い、カチとは指の先だけがカチっとかかる少し細かいものを言う。スローパーとは手のひら全体でベターと包みこむような或は押し付けるような感じで持つものを言う。

    4)スメアまたヒールフック、トウフックとは
     靴底の摩擦を利用してスタンスとする方法をいい、ヒールフック、トウフックとはスタンスに靴の踵或は爪先を引っ掛けるようにする方法を言う。

    5)ランジまたデッドポイントとは
     遠いホールドに飛びつく事を言い、デッドポイントとは、ホールドに身体を引き付けておき、そのホールドから手を放した瞬間から身体が岩から放れて落ちてしまう間の一瞬の無重力を利用してすばやく次のホールドを掴む事をいう。ランジのことをダイノと言ったりもする。ランジ、デッドポイントともに失敗すれば即墜落してしまう技術である。

    6)マントル、マントリングとは
     塀の上に這い登る時のあの動作である。マントルとかマントルを返すとかいう。ボルダリングの殆どはマントリングで岩の上に立って終わる。

    7)飛ばす或は飛ばしとは
     ホールドをとる為に手を送る様な動作をする事、例えば右手で持っているホールドの右に有るホールドを更に右手で取りに行く事をいう。送るともいう。あるいは、あるホールドを使わずに次のホールドを取りに行く事も言う。また、デッドポイント或いはランジ気味にホールドを取ることを言ったりもする。

    8)チョークパウダーとは
     汗取り、或は滑り止めのために使うチョークの粉を言い、それを入れる袋をチョークバックという。チョークとは炭酸マグネシウムを主とするものである。チョークを目の少し粗い布の袋に入れ、ボール状にしたものをチョークボールと言う。こうするとチョークパウダーが飛び散るのを防ぐ事が出来るため、クライミングジムによってはこのチョークボール、或はチョークをアルコール液に解かしたりした液体チョークのみの使用しか許さない所もある。

    9)クラッシュパッドとは
     ボルダリングマットと言われたりもするが、着地時の衝撃を吸収する為のマットである。1m〜1.5m四方で厚さは5〜8cm位のものが多い。
     最近はこのクラッシュパッドが必需品のように思われているようだが、必ず必要なものという訳ではない。事実、このクラッシュパッドが出現したのは最近のことであり、それ以前にはそのような衝撃吸収用のマットなどは使われてはいなかったのである。御岳や小川山等々、昔から登られているエリアの課題のほとんどは、クラッシュパッド等は使わずに登られたものなのである。

    10)トポとは、
     ある岩に設定された登る場所或は道筋、これを課題というが、それを記したものを言う。

    11)グレードとは
     その課題の難しさをあらわすものである。このグレード表記には、フランス・フォンテンヌブローで使われているものを真似たもの、フリークライミングのルートのグレード表記として使われているデシマルグレードを準用したもの、日本独特の段級グレード、その岩場独自のグレード、アメリカで行われているVグレード等々、非常に沢山の表記法がある。一応それらの表記法の間の換算は可能ではあるが、その岩場岩場での特殊性等が存在し、完全な換算は難しい。最近の日本では段級式が一般的になってきたようである。

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  7. どこでやるのか
  8.  何を使ってどうするのかはわかってもらえたと思う。じゃあどこでやるのかだが、ボルダーの有る所ということになるのだが、それが具体的にはどこかということになる。そこで、関東周辺を中心にその場所を簡単に御案内しよう。
    1) クライミングジム
     先ずは、関東周辺にも幾つか有るクライミングジムのボルダー壁を利用する方法がある。これは厳密に言えば、ボルダーを登る訳ではないから、ボルダリングではない。でも、一般的にはボルダリングと言っているし、自然のボルダーでのボルダリングの練習ということも有るので、一応ボルダリングに含める事にする。最近はジム専用のボルダラーもいるようだし、国体にも山岳競技としてボルダリングが取り入れられたようだから。

    2) 青梅・御岳渓谷
     東京都青梅市の御岳渓谷に沿って点在するボルダー群で、岩質はチャートである。チャートとは石灰岩が変化した岩で非常に硬い岩である。流水に磨かれた部分はつるつるになるが、そうでない部分は細かいカチ系のホールドスタンスが多い。シーズンはほぼ周年。ベストは冬。夏でも比較的に涼しく、登れる事は登れる。かつては独自グレードが使用されていたが、現在は段級式で再評価されている。JR御嶽駅前がすぐに御岳渓谷であり、そこの上下1km位にボルダーが点在している。至極便利。

    3) 秩父・三峰
     埼玉県秩父の三峰山の裾を流れる荒川の源流に近い河原に存在するボルダー群。何しろボルダーの密度が濃い。しかし、如何せん源流域であり上流にはダムが有る為、ひとたび台風などによる増水が起こると下地が一変し、沢の様子が変わってしまうくらいの変化を受けてしまう。従って、せっかく発表されたトポ類が参考にならなくなってしまうこともある。しかし、やさしい課題から難しい課題まで、それこそ選り取り見取りなので、自分で勝手に課題を作って登ると言う遊び方でも十分に面白い。冬は寒く、夏は熱い。らしい。早春と晩秋がベストか。現在のグレードは段級式。西武三峰口からバスがある。

    4) 笠間・佐白山
     茨城県笠間市に有る佐白山城跡公園の山中に点在する目の粗い花崗岩のボルダー群。ここはどちらかと言うとフリクション主体の課題が多い。従って馴れないと難しく感じる。初夏から秋にかけては大量の蚊が発生する為、その季節のボルダリングには虫除けは必携となる。ベストシーズンは冬である。グレードは、以前は独自グレードであったが、現在は段級式である。JRの笠間駅からは結構遠い。

    5) 信州・小川山
     長野県は佐久の川上村にある標高千六百メートルの廻目平キャンプ場を中心に点在する花崗岩のボルダー群。ここ小川山はフリークライミングのメッカ的存在。オートキャンパーも交え、夏ともなると大変な賑わいを見せる。最近はクライマーに交じって大きなクラッシュパッドを背負ったボルダラーの姿も増えて来た。シーズンは春から秋。夏でも快適に登れるが、高難度課題を目指すにはやはり晩秋がよい。冬場はキャンプ場の営業は休みとなり、水場、トイレ等は使えないが、キャンプ自体は出来る。現在は段級式グレードが定着している。やっぱり車が便利。

    6) 身延・早川
     山梨県の北岳から流れ出る早川の河原に点在するボルダー群。岩質が面白い。まさにコンクリートブロック。ここも源流域に近い為下地の変動は激しい。現在開拓中のエリア。車でないとちょっときつい。

    7) 豊田・古美山園地
     愛知県豊田市郊外の古美山園地内に存在する花崗岩のボルダー群。ここも岩の密度は結構高い。ボルダリング課題だけではなくルートの課題もある。グレードは独自グレード。名古屋地域のクライマーのゲレンデとして定着。車使用が便利である。

    8) 六甲・北山公園
     兵庫県西宮市の郊外にある北山公園の山中に点在するボルダー群。ここのグレードはデシマルグレード。関西地域のクライマーのゲレンデ。阪急の甲陽園駅から歩ける。北山公園までは西宮駅等からバスもあり、比較的便利な所にある。

    9) その他
     岩手県久慈市の北侍浜、福島県の安達太良山、岡山県宇野市の王子ヶ岳、福岡県北九州市の河頭山等、色々な所に多くのボルダーが存在し、過去のクライミング関係の雑誌に多数紹介されている。岩と雪、クライミングジャーナル等のバックナンバーを参照されたい。
     また、新たに開拓されたエリアも数多く存在する。それらの幾つかについては、ROCK & SNOW、freefan等の雑誌や機関紙、或いはインターネット上に公開されている。

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  9. どうやってやるのか
  10.  どうやってやるといっても、ただ手と足で岩を登れば良いのだが、一応地面からまず持てそうなホールドを持って、足の置けそうなスタンスに立ってスタートとなる。課題によっては地面からいきなりホールドに飛びついてスタートとなるものもある。足元に有る石の上に乗ってスタートする課題もある。

     地面を蹴ってスタートする事は、人によっては不可とする人もいるが、その辺は自分で納得すればどちらでも良いと思う。すごいのになると、遠くから走って来て岩の斜面を駆け登ってしまうというのも有るらしいし、噂によると、隣の岩から飛び移るというのまであるらしい。

     岩に張り付いたら、次に足或は手を動かして別のホールドやスタンスに移り、それを繰り返す事により身体を上げて行く。そして、最後に岩の上に立てば終了である。この時、マントリングにより岩の上に立つことも多い。

     自然の岩の場合はほとんどが岩の上に立って終了となるが、一部の岩壁の基部に設定された課題や人工壁の場合は、決められたホールドを両手で保持して終了となる。この場合は終了後飛び降りなければならない。

     技術的には一般の岩登り或はフリークライミングと同じである。とくに変わった技術を利用すると言う事はない。クリップと言う登る為には余計な動作や、落ちても安心と言うことから、純粋に登る事だけに専念することができ、より高難度なムーブを追求することが出来る。

     とはいっても、落ちたら怪我をする可能性も十分にあるし、無理な体勢で落ちれば大きな怪我をする事もあるので、細心の注意を払って行動しなければならないことは言うまでもない。

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  11. ボルダリングの色々な楽しみ方
  12.  ボルダリングは、どちらかと言うと大勢で一つの課題を、ああでもないこうでもないと、ワイワイ言いながら登る方が面白い。ルートと違って、見ている人達の目の前で登る訳だし、使うホールドやスタンスが良く見える訳だから、ただ見学しているだけでも結構楽しめるのである。ましてや、皆が同じ体験を共有するとなると尚更その楽しみは倍増される。そして、登っている最中でも、見物人と登っている人との間での会話は十分に成り立つし、お互いに言いたい事を言いながら、また聴きながら遊べるのである。

     同じ一つの課題であっても、ホールドやスタンスを限定したり、シットダウンスタートといって、座った状態でスタートしたりすると、グレードも難しくする事ができるので、それによってレベルの違う人とでも、いわゆるハンデを課すみたいな感じで、いっしょに遊ぶ事ができるのである。また例え最初の1手しか出来なくても、ルートと違ってビレーを必要としないし、ロープにぶら下がって休息なんてことも無いから、1試技にそれほどの時間を要しないので、上手な人達に交じって遊ぶ事も十分可能である。こういうのをボルダリング・セッションと言うらしい。

     これの変形として、これ出来るか大会というのも有る。これは、非常に変態チックな課題を設定し、こんなのは出来ないだろうとか、これってどうやったら出来るかなぁとかでセッションを行うのである。これも手軽に課題を設定出来るボルダリングだからこそ出来ることである。

     勿論、ビレイヤーを必要としないから、ただひたすらストイックに黙々と一人自分の課題に取り付くのも良い。特に高難度課題に取り組むにはこのスタイルが向いている。御岳の忍者返しの岩の前などでは、この岩には3段の課題がいくつもあるから、それらの課題に取り付いている人がいる時などは咳をするのも憚られる雰囲気がある。これはこれでまた楽しめる分野である。

     出張の時などにバックや鞄にクライミングシューズと液体チョーク辺りをそっと忍ばせ、仕事の合間に近くのボルダーを尋ねると言うようなことも、ボルダリングならではである。これが、ルートだとそうは行かない。例え運良くビレイヤーが確保出来たとしても、ロープ、ハーネスにヌンチャクとなると、おまえは何しに行くのだと言われかねない。それでなくともクライマーには有休の消化率が過度によろしい人が多いわけだから。

     ボルダリングはプロテクションを必要としない為、上にも書いたが、非常に手軽に課題を設定する事ができる訳だが、これは反対から見れば、プロテクションを設置しない為、課題が非常にわかりにくいと言う事にもなる。初めての岩場であればトポがなければそこに設定されている課題はわからない。まして、グレード迄はまずわからない。

     しかし、それでは遊べないかと言うとそんなことは全くない。自分で課題を設定し遊べば良いのである。確かに、この場合は自分の限界のグレードに挑戦することは出来ないかも知れないが、それは、自分のホームゲレンデででもやれば良いのであって、こういう時は自分が課題設定者になって楽しめば良いのである。なにも、いきなり難しい課題を設定しなくても、先ずはやさしい課題を設定して、その後徐々にホールドやスタンスを限定したりすれば良いのである。なにしろ、自分なりに気軽に楽しめば良いのである。

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  13. ボルダリングの上達方
  14.  それはもう、中高年は早急な上達は望まないと言うのが鉄則である。でないと怪我をしたりしてろくな事はない。だから、中高年のボルダラーは上達は望まなくても良いのである。望んではいけないのである。自然に上達するのを待つべきなのである。

     初心者だと思ってやさしく丁寧に教えて上げていた若者が半年もしなう内にすごく上手になってしまって、反対に教えてもらう立場になってしまったとしても、焦ってはいけない。やさしく、克そのうち怪我をしなければ良いがと、実はその事を密かに期待したりしながら、見守ってやるべきなのである。それが、中高年ボルダラーのあるべき姿なのである。

     何年かやっていれば、必ず巧くなるものなのである。永年やっていれば、1級とか初段とかを登る若者が3級とか4級のスラブで手も足も出ない所をすすっと登ってしまって、こんな易しいのがどうして登れないのかなぁなんて、そういう楽しみも出て来るものである。

     中高年の目指すべきものはやっぱりスラブしか無いのかもしれない。スラブ登りは、力はそれ程必要とはしないが、足使いやバランスに非常に高度なものを要求する。これはもう、人生の酸いも甘いも十分に経験して来た中高年の為の技術といっても過言ではない。かもしれない。そのためにはのんびりと気長に経験を重ねる事、これが重要であるし、これしか無いのである。中高年の目指すべき目標はスラブの初段、小川山のグロバッツスラブだったりして。

     でも正直、ジムではこんなことやっててもあんまり面白くはない。ジムのボルダー壁は概して被っている。最近は130度はおろか160度とかルーフとかが出て来ている。こんなのは中高年にはきつい。すぐに疲れて登れなくなってしまう。でも、気長に繰り返しやっているとそこそこ登れるようになってくるものであるから、諦めずに挑戦し続ければよい。不思議と、そのうち必ずなんとかなるものだ。

     本気で上達を望むならば、やっぱり外の自然の岩に行かなければだめだと思う。自然の岩の場合、ジムみたいに被っているものは少ない。従ってそこそこ中高年向きとも言える。そんなに絶対的なパワーは必要とはしない。しかし、その分足が悪く、指への負担は非常に大きくなって来る。

     この指の強化だが、これはいくら若者だからといってそう短時間で強化出来るものではない。それ相応の時間を要するのである。かえって、短時間で筋力を鍛えてしまった場合、腱と筋肉の力のバランスを失い、いわゆるパキるという怪我を起こしやすくなってしまう。中高年の場合、若者に比べるとこの腱の強化にも余計に時間がかかるのかも知れないが、必ず強化されてくる。中高年でも指は強くなるものである。もしかすると、高年になってくると自然と体重が落ちて来て、所謂ダイエット効果がすごく期待出来るかも知れない。そうなれば高年者は相対的に指が強化されることになる。クライミングは絶対パワーではなく、体重に対する相対的なパワーがものを言う訳だから、いわゆるパワーウエイトレシオがものを言うわけだから、指を鍛えるのと体重を落とす事は同じ効果を発揮する訳である。

     やっぱり、焦らず地道に経験を積む事である。

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  15. ボルダリングの危険性
  16.  安全に飛び降りられる高さの岩しか登らないとは言っても、落ちれば怪我をすることはある。あるいは、岩によっては、課題によっては、落ちれば必ず怪我をするであろうものも存在する。そういう課題の方がどきどきして面白いからである。この落ちたらやばいという緊張感がまた何とも言えない麻薬であることも確かである。それを求めてボルダリングに熱中している人も結構いる。

     最初からそこまで過激なボルダリングはしないとしても、怪我をする可能性は否定出来ない。まして中高年の場合、骨はもろくなっているし、反射神経の反応時間も確実に落ちている。従って、若者よりは確実に怪我の確率は高い。同じ状態で飛び降りたとしても、若者は何でもないのに、中高年者は捻挫したとか、踵の骨にひびが入ってしまったということも有り得る。

     従って、中高年者は迷わずクラッシュパットを使用すべきである。腰の保護の為に腰ベルトを着用するのも良い。また、頭、特に後頭部を打つ可能性も高いので、スノボ用の衝撃吸収パット入りの毛糸の帽子を被るのもよい。格好など気にする事はない。怪我の可能性は出来るだけつぶすべきである。

     以前は上記のように考え、実践していたのだが、最近では、クラッシュパッドに飛び降りるだけで足首を負傷する現象が出始めたのである。要は足首が十分に曲がらなくなってしまい、足首により衝撃を吸収する能力が低下してしまったのだ。その為、落ちたり飛び降りたりできなくなってきたのである。つまり、クラッシュパッドが意味をなさなくなってきたのである。さらに言うと、かえってクラッシュパッドがあるために無理をしてしまう可能性が大きくなってきたのである。とするならば、クラッシュパッドは無い方が安全性が増すという考えに至り、クラッシュパッドは殆ど使用しなくなったのである。クラッシュパッドがあると、無理なムーブを起こし、怪我をする可能性が高まるから、クラッシュパッドを取り除き、無理なムーブを起こす気を殺ぐ方がかえって安全性が増すということだ。
     より危険性を増し、安全性を確保する。これ、結構ドキドキして楽しいし、登れない言い訳にもなるので、一石二鳥という所なのである。
    (10/10/15 追記)  

     あまり、怪我の可能性をつぶしてしまうとボルダリングの楽しさの一つであるドキドキ感をも潰すことになってしまうが、それがいやだと言う場合は自分の責任でやれば良い。クライムダウンの技術も十分に習得してからやれば良い。やっぱり、決して落ちる事のない方法でやれば良い。アルパインクライミングの様に。そうすれば、中高年でも十分に恐い系の課題に挑戦出来る。また、それが非常に面白い。あくまでも自分の責任においてだが。

     もしかすると、恐くなければボルダリングでは無いのかもしれない。

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  17. 終わりに
  18.  以上、自分の経験も技術も省みず、相当いいかげんな事を書いてしまった。しかし、決してボルダリングが若者だけの遊びではないし、中高年でも十分に楽しむ事の出来るものである事は間違いが無い。また、それなりに危険であると言う事も間違いが無い、と思っている。その辺を十分に理解していただき、あくまでも自分の責任で挑戦される事を切に望むものである。必ずや新たな喜びの発見があなたを迎えてくれる事であろう。

     さあー世界に向かって皆で叫ぼうではないか「中高年こそボルダリングだ!!」と。

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  19. 付 録
  20.  中高年者のボルダリングの一つの楽しみ方について (クラッシュパッドについて考える)


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作成年月日 平成12年 5月31日
最終修正日 平成22年10月15日
作 成 者 本庄 章