零ノ谷エリア

2008年 9月21日記

 以下は、零の谷と呼ばれるエリアの案内です。

 皆が上の目的の岩に行くと言うので、小生も一番後ろから付いて行く。なにしろ歩くのが遅く、すぐに離されてしまうから、ということでの一番最後からの出発である。

 最初は前回のイベントのときに磨いたスラブの横を登り始めたが、すぐに引き返し、その先の谷の斜面に取り付く。

 ほんのちょっとした踏み跡に入り、僅かに登ると急に傾斜が増してくる。下に草は殆ど生えていないから、その点では歩きやすいと言えるのだが、何しろその傾斜が半端ではない。それをほぼ真っ直ぐに登って行くから、なおさら大変である。一番後ろを良いことに小生は怠け者の馬よろしく少しジグザグに登って行く。そんなことをするとますます遅れてしまうのだが、そんなことは言ってはいられない程の傾斜なのである。

 どれくらい登っただろうか、大きな岩峰が現れる。その辺から上を見上げると、岩だらけである。その中に、大きな岩が大きな岩に寄りかかったような感じで洞穴を形作っている岩がある。その洞穴の天井の隙間を登ろうと言うことらしい。所謂ルーフクラックである。それもオフィズスとかいうサイズらしい。今回の仲間は皆そこを嬉々として眺めている。

 ここまで登ってくるのにどれくらいの時間がかかったのだろうか。そこに案内してくれた仲間に言わせれば20分位らしいのだが、なんだかそれよりはもっと早くに着いた気がする。

 一緒に10級を触った人は前にもここに来たことがあるらしく、その時にそのルーフクラックにトライしたらしいのだが、その時は一人だったらしく、恐くて途中で諦めたらしい。先ずはその人が再度のトライを始める。

 薄暗い洞穴の中で、何人かの人が両手を天井に向けて差し伸べている。下にはそのとき持参した2枚のマットが敷かれている。覗いてみると、天井から足の先と時々手の先が見え隠れしている。その天井に出来た隙間にその人がすっぽりと入り込んでいるらしいのである。

 中に入っていったら、天井から、もう駄目だとか、いやまだもう少しとか、声が聞こえてくる。そして、いきなり二本の足が出てきた。どうやら狭くなりすぎて、その先進めなくなってしまったらしい。

 この課題の説明を少ししておこうか。この課題はジムの昔の仲間がレイバック体勢で、もう一人の昔のジムの仲間はオフィズス登りで、共に一撃で登った課題らしい。グレードは10aだとか10cだとかそんなグレードだという。そして、レイバック体勢で登った人は12だかともいっていたような。

 その天井のクラックを、登ると言うよりも、洞窟の入り口まで僅かに下ってきて、大きな石の上に張り出した今にも落ちてきそうな薄いルーフをマントルして隣の岩、或いはそのルーフの上に抜けると言う、結構長い、そして、最後のマントルも下地は決してよくないから、相当に恐いらしい課題である。

 足を出した仲間は、そこからレイバック体勢に移行しようと、クラックにニーロックしたりして少し動いていたが、結局は力尽きてしまったようで、落ちてしまった。

 その洞穴の出口の、岩の上の壁を少し登って、奥から続くクラックの先のルーフをマントルするという、本来は奥のルーフクラックから続く皆がやっている課題の後半部分に当たるのだが、そこだけでも面白いらしく、皆がそこのところにトライを始める。しかし、そこは離陸して2〜3手進んでしまうと、下は大きな岩の斜めの斜面になっており、その少し先は岩が切れ、2mくらいの段差で、先ほど登ってきた急斜面に続いているという、恐ろしい場所に落ちてくるのである。従って、落ちる事は出来ない課題なのである。

 そこを、一緒に行った仲間2人と、昨夜の仲間2人が登り、そこから苔だらけの急なスラブを登って降りてくる、そのときの恐怖を頻りとしゃべりあう。それを聞いて、最初にクラックにトライした人が、その人は、マントルの直前まではリハーサルしたらしいのだが、マントルは返してはいなかったらしく、おしゃべりの仲間に加わるのだと、続いて挑戦する。

 このマントルだが、一部の例外を除いて、体がルーフの上に上がり、両足も上に上がってからも、なかなかルーフ、或いは隣の岩の上に立ち上がらないのである。なんだかルーフの上に上がってからも、そのまま横に寝たままで暫くゴチョゴチョうごめいて少し上の方まであがってから立ち上がるのである。下で見ているとなんだかすごく恐そうに見えるのだが、本人達は身体はすごく安定しているから落ちる気はしないのだが、なんだか恐くて立ち上がらなかったといっていた。なんだか不思議な課題である。当然小生のグレードではないから、小生一人だけ、カメラマンに徹していた。

 写真を一通り撮り終えるとやることが無い。本当に易しいところを運動靴で登ってみたが面白くはない。周りの岩を偵察に行く。

 その岩のある場所の両側は高い岩峰の側壁の様になっている。左の少し上のほうには尾根の稜線もみえる。その側壁から尾根の稜線にかけての斜面には大きな岩や小さな岩がゴロゴロしている。そんな小さな岩を伝いながら上のほうまで登ってみたが、登れそうな適当はボルダーは見当たらない。どれもボルダーとしては不適である。こんなに有るのにもったいないなぁとか思いながら、みなのやっているルーフクラックの岩の上に回りこんでみる。

 下から見たときはそれほどの傾斜には見えなかったマントルを返してからのスラブが、そこから見ると結構な傾斜で見える。おまけに苔苔である。こんな傾斜のこんな苔苔のスラブを登ってくるのか。改めてトライしなかったことが正解であったことを確認する。

 朝から別行動を取っていた、昔のジムの仲間の二人が皆のもとに上がってくる。このうちの一人がここをオフィズス登りで登った人である。

 それ迄も、その後も、オフィズス登りの人、レイバック登りの人達が、クラック部分を何回と無く挑戦するが、なかなか進展が見られないらしい。後から登ってきた仲間の一人は、まだここを登っていなかったらしく、オフィズス登りに挑戦しだす。

 それを見ていたら、外の人に比べると、クラックの中での上体がはるかに立っている。従って、足はクラックの外にはみ出している。そして、クラックの中で横になっている人に比べると進むスピードが速いのである。あんなことも出来るんだ。しかし、その人を含めなかなか進展が無い。

 それを見ていたオフィズス登りで登った人が、その登り方を見せてくれることになる。

 この人は女性で、大分体格が小さいからか、ほぼ最初から最後まで、真っ直ぐ立ったまま進み、レイバックをすることなく、途中で身体を反転させ、クラックから抜けてルーフに移ってからも、そのルーフの上のクラックの淵を掴むなど、今までの人たちとは大分に違うムーブで登って行く。そうすると、10代のグレードになるらしい。

 その後、オフィズス登りの人が、途中からレイバックに移行するところを何とかクリアーし、先のオフィズス登りの人のムーブをも参考に、遂にルーフ下からルーフをマントルして、ルーフの上に立つことが出来た。

 降りてきて、久しぶりに嬉しかったとか。

 先に、ルーフのマントルを登った一人が、そのときに頑張りすぎてか、胸の筋肉か肋骨を痛めたらしく、一人で先に降りていった。

 後から来た仲間と、ルーフクラックを登った人が、高い方の岩峰の側壁を見て歩きながら、あのクラックはどうの、このクラックはこうのとか言っているので、小生もくっついていってみる。

 結構ガチャガチャした壁に一列のピンが打たれている。ある山岳会の人達が打ったピンらしい。しかし、その間隔が、小生が見てもすごく狭い間隔で打たれている。下から鐙をかけて打っていたのではないかと言っていたが。

 そこから、少し下がったところで、上を見上げながら、頻りとルーフクラックがどうのとか言い出す。小生も上を見上げてみたが、何となく出っ張った感じの部分が見えはするのだが、ルーフクラックはおろかルーフすら見当たらない。暫く不思議な気持ちで上を見上げていた。

 皆の所まで戻ると、先ほどルーフクラックに成功した人が、後から来た昔のジムの仲間二人に、先ほどとは反対の方の上の方にある5.7だかのハンドクラックの課題をやらないかと勧めてる。そのハンドクラックという言葉に反応し、小生も連れて行ってもらうことにする。

 急斜面を少し登ると、真正面に凹角状の面を持った岩峰が見えてくる。上のほうは双峰状になっている。凹角がハンドクラックと言うことらしいのだが、どう見てもより幅が広く見える。上1/3位は完全に双峰状に見えるほど間が開いており、後ろの景色が見えている。そして、高い。7〜8mは有ったかもしれない。斜面の途中に聳える岩峰だから、より高く見える。ボルダーなのだろうか。

 案内してくれた仲間も、これはボルダーかと聞いてくるから、希望を込めて、ボルダーじゃないと答えておく。

 案内してくれた人が先に登り、降りてきたので、本当に5.7か、ホールドの状況は悪くは無いか等を聞いてみる。2/3位登ったところが核心だが、そこまではガバガバで降りて来る事が出来るとの言葉が帰ってくる。

 昔のジムの仲間の一人に続いて、先の言葉を信じ、意を決して取り付いてみる。

 先に登った人達のムーブを真似てみようという意識は有ったのだが、いざとなると、結局は独自のムーブになってしまう。それでも、難しくはないから、ガバを繋いで上に登って行く。

 双峰状になったところで、左側の岩のホールドが無くなる。右の壁を触ってみるが、ガバは見当たらない。どうしよう。ここからならまだ降りられる。

 ワイドクラックになった所に腕を突っ込んでみる。肘を少し曲げてみる。引っ張っても出てこない。なんだか腕が留っている。これしかないのかなぁ。下から、その上にガバがあるとの声が飛んでくる。見上げると、右の岩のカンテにそれらしいところが見える。でも少し遠い。

 ここまできたらもう行くしかない。意を決し、レイバック体勢になって、右足を突っ張って左手を伸ばしたら、そのガバに手が届いた。後はどうやったかあんまりはっきりは覚えてはいないが、何とか右の壁を攀じ登る。

 上に上がってみると、岩の上は薄く尖がっている。そして、裏の地面まで2mくらいありそうである。ここを降りるの? 少し心配していたら、また下から、「ルーフクラックを良く見るように」との声が飛んでくる。そうだそうだ。正面の登ってきた岩の後ろの方を見たが、木が生い茂っていて展望が無い。そうか、後ろか。その岩の登ってきた面を見るように体制を入れ替え、前方を見ると、そこに聳える岩方の上のほうに、張り出しが2m位あるいはそれ以上あるのか、すっきりと、はっきりとしたルーフが見えた。あんなにスパーッと出っ張っていたのか。まっ平らな先端が少し下がって見えるルーフである。あそこにクラックがあるんだ。

 恐る恐る裏側に降り、下まで戻る。

 上を見たら、オフィズス登りを見せてくれた仲間は既に上に抜けるところだった。

 仲間曰く、見てて恐かったー。だそうだ。そして、あそこは自分も最初はレイバックかと思ったとも。

 ルーフクラックの仲間達はその後、レイバック登りの人が、レイバック登りの核心らしいところを越え、レストの出来るところ辺りでスリップしてしまったらしかったが、結局はそこを登った人は出なかったらしい。


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作成年月日 平成20年 9月23日
作 成 者 本庄 章