とあるボルダーその17

2005年10月26日記
 10月下旬の土日にジムの仲間2人と3人でとあるボルダーに行ってきた。前回あるイベントのお手伝いをこのとあるボルダーエリアでやらせていただいた、その関係からの訳有りのとあるボルダー行きである。

 現地で待ち合わせという訳でもないが、10時頃に駐車場にいるという元ジムの仲間と合流できればと、土曜日の朝7時に何時もの場所で待ち合わせ出発する。

 土曜日の朝少し遅めということもあって中央道で渋滞しているとの予想が出ていたが、心配したほどの渋滞に嵌ることも無く、少うし渋滞した程度で、11時頃にとあるボルダーエリアに到着する。

 途中、手前の駐車場に元ジム仲間の自動車を発見する。しかし、仲間の姿は見えなかったので、一先ず少し先のメインの駐車場迄行き、トイレ等を済ませ、再び仲間の自動車の有った駐車場まで戻る。

 支度を始めると、隣に停っていた自動車の人が仲間の一人に声をかけてくる。その仲間の先輩に当たる人らしい。その方もボルダリングに来られたようだ。

 その仲間と先輩との会話を聞くとも無く聞いていると、なんだか聞いたことのある人の名前が出てくる。若しかしてあの方のことなのだろうか。ふと、そう思い、大いに興味をそそられたのだが、会話が一方的に弾んでいるようなので、特に確認することはしなかった。というか、出来なかった。

 我々が、迷いながらも、阿修羅という課題のある岩まで行くと、先に出発されたその方とそのお連れの方が居られたが、元ジム仲間の人はいなかったので、我々は、仲間の一人がやりたいと言う、クリカラという課題のある岩に行くことにする。

 その岩はそこからは少し離れているので、縦横に廻らされた歩きやすいが判りにくい、万に一つも歩くことは無いであろう天皇陛下のために作ったのではと疑わせるに十分な遊歩道を歩き、案の定、途中僅かに迷いつつ、クリカラまで行く。因みにクリカラは千里眼の上のほうにある岩であり、前回来たときに初めて行った岩である。

 相変わらず下草が綺麗に整理されているので、しっかりした道は無いが、歩きやすい。

 この遊歩道だが、先にも書いたように、同じ様な仕様の道が、同じような景色の植林地の中に縦横に張り巡らされており、おまけに、10月下旬では、未だ木々の葉はしっかりと木に張り付いて生い茂っているので、見通しも利かないから、葉っぱの落ちきった季節であれば何も考えずに行ける阿修羅の岩に行くにも迷ってしまったし、このクリカラのあるエリアへのアプローチでも結構迷ってしまったのである。まぁ、迷ったと言っても、道はどっかでまた交わったり、戻ってきたりしているから、少し遠回りにはなっても、何となく目的地には辿り着けるので、それほどのロスにはならないのが幾ばくかの救いではある。そんな訳で、いつも最短距離を歩くわけではないし、いつも同じ道を歩くわけでもないから、余計に道を覚えられないのである。更に言えば、未だにその概要すら頭に入っては居ないのである。なんだか良し悪しというところである。

 クリカラの岩の前に荷物を起き、その上に見える丁度マントルに良さそうな岩の偵察に出る。

 行ってみると、少し横長のテーブル状の岩で、正面には、適当な高さの結構被った面を持っている。その面の左の方には、SDでここを登れといわんばかりの、右に斜上するクラックと言うかフレークというかそんなホールドを持ったラインが見える。当然そこを仲間が登る。

 小生、被り物は苦手である。しかし、リップも持てそうだし、マントルもそう難しくはなさそうだし、何しろ岩がここを登れと言っているから、ここは登らねばなるまい。

 仲間の真似をして取り付いてみる。足が無い。何時もの如く離陸が出来ないのである。

 両手で右斜め上に伸びるしっかりと掛かるリップ状のホールドを持っているから、右足をどこかに置きたいのだが、良さそうなスタンスが見当たらない。左足のトウをそのクラック状のリップに引っ掛けようとしても、少し遠い目になるから、上手く行かない。ではもっと近くでヒールをとやってみても、小生にヒールが掛かるほどのクラックでもない。ああだこうだやってみたが、やっぱり出来ない。

 もう一人の仲間がそこを登ったので、見ていたら、左足はクラックの下の淵辺りをスメアで突っ張っている。そうか、そうするしかないのか。

 スメアで突っ張るというムーブは、手に負担がかかるので、指力に乏しい小生には、あまりやりたくは無いムーブだから、あえてその可能性を追求はしなかったのである。しかし、それしか無さそうだとなればそれをやるしかない。

 壁を調べてみたら、少し高い目ではあるが、クラックの下の淵にちょっとしたスタンスが見つかる。

 チョークでちょっと印を付け、そこを左足で突っ張ってみたら、リップのホールドも何とか持つことが出来、離陸が出来た。手を送って、少しかけやすくなったクラックにトウをねじ込んで尚も手を上げて行く。

 このクラックはリップの下辺りで途切れるので、そのすぐ上に同じような角度でリップまで走る短いクラックに乗り換えなければならない。しかし、そこまでくれば水平のガバに近いスタンスが使えるようになるし、上のクラックのリップも下のそれよりはガバなのでより楽になる。そのガバを両手で掴み、ガバスタンスの斜め右上のスタンスに右足を移し、リップの上のホールドを窺う。既に相当に力を使っている。

 このリップの上のホールドが少し遠いし、はっきりとしたホールドでもないから、どこだどこだと言って探っている間に完全に疲れてしまい、飛び降りざるを得なくなってしまった。

 被っているし、クラックのリップの下の方のホールドはスローパーチックだから、大変に疲れるのである。仲間の、そのクラックの左の壁を登る様子を眺めたり写真撮影したりしながら休息を取る。

 さっきの続きをまたやってみる。今度は意外とスムースにムーブが進む。リップの上のホールドを窺いに行くムーブもはっきりと自覚できる程前とは余裕が違う。身体を上げて、少し遠いあまりかかるとは言いにくいちょっとしたポケットを左手で取り、右足を左足に踏み変え、右足をリップの上に上げる。あとは傾斜が緩いから足なら立てる。

 ちょっとだけ満足する。

 仲間はその左側の壁も登ったので、前回も行った、少し高い目の凹角の課題のある岩に行ってみることにする。この凹角の課題も、この岩で一番最初に目に付くラインである。

 小生が先頭を歩いたからか、トレールを少し上に外してしまったようだ。

 前回も登った仲間が今回も登る。もう一人の今回初めての仲間も登りはじめる。

 今回初めての仲間は最近はクライミングはそう繁盛にはやってはいないらしい。今回も久しぶりの外岩だったようだ。そんなせいか、途中で何回か飛び降りてくる。やっぱり、傾斜が無いとはいえ、垂直に近いし、スタンスもよくな無いようだから、結構厳しいらしい。おまけに、今回はクライミングシューズを下ろしたばかりということもあったようで、その後も何回かトライを繰り返していた。

 出だしの所を小生も少し触ってみたが、なかなか離陸が出来ない。この離陸が最初の核心らしい。仲間のムーブを真似してみたが、ホールドが持てなかった。

 仲間二人は左側の壁も登っている。ここには2本ほどのラインがあるらしい。小生もそのうちの一本を登ってみようと思って下部を少し触ってみたのだが、共に思ったほどは易しくは無いようだった。

 戻るときに、この岩ではどこも登らなかったので、靴はマントルの岩に置いてきたものと思い、手ぶらで戻ったのだが、置いたと思われる、マントルの岩の近くを探してみたが、靴は見当たらない。やっぱり凹角の岩に持っていったのだろうか。戻るときに心当たりは探したのだが。仲間にそのことを告げ、一人で靴を探しに戻る。

 凹角の岩の置いたとすればここだろうと思われる場所を再度探してみる。しかし、見つからない。少し焦りながら、尚も記憶をもとに探してみたが見当たらない。さぁーどうしよう。そう言えばあそこにも入ったような気が。

 何回か行き来した踏み跡からほんの少し脇に入った場所に入ってみたら、周りの色と紛らわしい茶色の袋に入れた靴が置いてあった。確かに、来て一番最初にここに立って写真を撮っていた様な気もする。

 急いでクリカラの岩に戻り、仲間がクリカラを登る姿を一生懸命デジカメに納める。

 暫くデジカメを構えていたが、写真もそこそこに撮れてしまったし、寒くもなってきたから、クリカラの右側の、丁度目の高さくらいのルーフのマントルをやってみる。

 リップの上にちょっとしたお饅頭状のホールドが2つある。そのホールドで離陸してヒールをリップに持ってゆく、そんな感じである。

 右のリップが少し低くなっているし、ちょっとした切れ目もあって、何となくガチャガチャしているから、そこら辺にヒールを架けてみる。ルーフといってもそんなに出っ張っているわけではないからルーフの下の壁の適当なところに足が置けるので、ヒールはそんなに頑張らなくとも置くことが出来る。あとは、そのヒールで身体を引き上げ、体重を移して行けば良いのである。

 しかし、その踵に体重を移し、乗り込んで行けば何となくマントルが返る、そんな光景をイメージは出来るのだが、足の筋肉が悲鳴をあげ、踵で体を引き上げることが出来ないのである。要するに足の力が決定的に足りないのであろう。それを少し無理して頑張ると、足のスジが痛くなってしまうのである。なにしろ、ここのところ、殆ど自動車でしか移動しないから、足の筋力が極端に落ちているのである。歩かなければ、歩かなければと、常に考えてはいるのだが、それがなかなか実現できないのである。

 という訳で、一回で諦めてしまった。

 そうこうする間に3時を廻ってくる。そろそろ下の駐車場での待ち合わせ時間である。とはいっても、小生も仲間も、3時から4時頃に集まって、皆で目的地に移動しましょうと言うこと位いしか記憶に無い。まぁ、あの辺にいれば連れて行ってくれるだろう位な、漠としたことしか考えては来なかったという証拠でもあるわけだが。

 この用事は小生ともう一人の仲間が関係することであり、もう一人の仲間はその用事には参加はしないのである。従って、その仲間とはそこから明日の朝までは別行動になるわけである。ということで、その仲間をそこに残し、もう一人の仲間と二人で自動車まで下ることにした。

 実は、待ち合わせの駐車場を越えて自動車の場所まで行き、そこから自動車で引き返してくると言う、大変に面倒くさい移動になってしまったのであるが、まぁ、そんなに遠くは無いから、待ち合わせの駐車場の上を通り自動車の場所まで戻る。

 我々の横には相変わらず、その用事を共にすることになっている元ジム仲間の自動車が停まっている。周りには仲間の姿はない。

 支度をしていたら、ボルダーマットを背負った子供二人が降りてくる。少し遅れてその子供のお母さんと思しき方が降りてくる。その方は普通の格好をしている。あんな子等がこのとあるボルダーに来るのだろうか。お母さん主導で来たという風にも見えないし。何となく不思議なグループではあった。

 待ち合わせの駐車場に行ってみると、外にその用事に参加するであろうと目される人は見当たらない。

 駐車場の脇の管理棟に行ってみてもそれらしい人の姿は見えない。既に3時半を廻っている。果たして、3時から4時頃との前提は正しかったのだろうか。

 駐車場に戻ると、前回お会いしたうちの一人の方がやってきた。その方とお話しながら待っていたが、相変わらず次の人は現れない。4時を少し廻った頃に外の人たちが集団で現れた。その人たちは元ジムの仲間と一緒だったようだ。

 今回お邪魔することになっている家の方を先頭に6台の自動車行列で目的地まで走っていった。約1時間。どこをどう走ったか殆ど判らなかった。

 明朝、目を覚ましたら、既に7時を廻っている。なんだか結構寝込んでしまったようだ。

 各自朝食を済ませ、昨夜帰った方と、昨夜合流し今朝すでに立たれた方を除き、4台の自動車で昨日の駐車場を目指す。

 幾つかの道を繋ぎ、広域農道などを走って、道の駅に寄ってから、何時もの道に出て、信州峠を越えた。

 途中、皆と別れ、昨夜分かれた仲間がいるであろう場所への近道になるかもしれない林道に入る。普段通る人がいる林道かどうかわからず、道の状況に少し不安があったが、実際は結構手が入れられており、何の心配も無い林道であった。

 仲間が、「二刀流」という課題が気になっているというのと、若しかしたら、仲間がその辺で時間を潰しているかもしれなから、「二刀流」まで行って見ようということで、その付近で自動車を停め外に出てみる。しかし、「二刀流」もほんの少し遠いし、仲間のいる気配も全く無さそうだと言うことで、そのまま自動車に戻り、途中仲間がいるかもしれない付近に注意しつつ、駐車場に向かう。果たして、仲間は駐車場にいて、先に到着していた仲間の人たちとお話をしていた。

 今回は、途中、小川山に分かれた仲間を除き、昨夜集まった仲間たちとわれわれの仲間を加え、総勢、うーん、大勢でボルダリングをすることにした。

 前回のイベントのために磨いた岩の先のちょっとした谷状(レイノタニというらしい)を登っていったところに今回の目的の岩が有るらしいのだが、その周りにはアップが出来そうな岩が無いと言うことで、その手前の、なんと言う岩だかは知らないが、「美しき日」という課題のある、確か「三の谷」の入り口の岩でアップを始める。

 正面は少し被った壁になっており、高さは3mから4mくらいの岩である。

 皆はその岩の左端のカンテの左の面の課題、正面のポケットからスタートしてリップのスローパーでマントルを返して行く課題などを登っている。

 小生は、カンテの左側の壁の一番奥の、これぞ10級という課題を教えてもらって登って見る。

 その辺はいきなりリップが持てる高さになっているから、最初からリップを持ってスタートする。しかし、そのリップには顕著なホールドは無いから、なかなか出られない。あっちこっちリップを撫でまわしていたら、この課題を教えてくれた昔のジムの仲間が、すぐ左のガバチックなホールドを示して、10級だから躊躇してはいけないのだと、それを使うことを示唆してくれる。確かに、少し難しく登ろうとしていたかもしれない。

 それを見て、昨夜一緒になった、ボルダリングを殆どやったことが無いと言う人が、登ってみる。そして、「10級って3級ね」という。なんだか判りにくいが、何となく判る。即ち、3級は昔の岩登りの3級であり、10級は最近のボルダリングの10級なのである。どちらも、一番易しいグレードなのである。

 その人が、ボルダーのグレードがよくわからないというから、デシマルだと、3級は10.cくらい、1級は11.a位いになるのではないかとお話する。同じデシマルでも、ボルダーとルートでは違うみたいだから、判ったような判らないような話では有るのだが。

 続いて、正面の右のカンテを少し右寄りから出る、10級クラスの易しいラインを登ってみる。  スタートの足が少しだけ高い。その足に少しだけ頑張って乗り込んで行く。もしかすると少し前だったら乗り込めなかったかも、そんな感じのスタートだ。その上も、ガバガバガバとは行かない。ほんの少しだけ難しい。このライン、10級じゃないかも。

 この岩は以前にも触ったことのある岩なのだが、その時は結構苦労したように思う、正面左のカンテの左側を登る課題を皆さんが登っていたので、小生もそれを真似してみる。

 先ずは左手で斜めのフレークの淵のカチで離陸し、右上の少し斜めの僅かなバンド状のカチを取り、そのままその手を左少し上の浅いポケットまで飛ばしてから足を上げ、左斜め上の少し遠めのホールドを取りに行くと言う感じのムーブである。

 例によって離陸に少し戸惑ったが、何とか離陸し、ポケットから少し遠目のガバに近いホールドでもう一つ上のリップ付近のホールドを探ったが、良さそうなものが見つからない。仕方がないから一手戻って飛び降りる。

 別の人の登り方を見ていたら、左手の少しガバのホールドから右手をクロス気味に左ちょい上あたりのアンダーガバというか、ピンチガバというか、いずれにしてもガバを取って上に抜けて行く。これだ、とそれを真似してみたら、何とか登ることが出来た。

 次は、その左のガアンダーガバには行かずに、そのままリップの上のほうを取って登るムーブでも登ってみたら、これも登ることが出来た。

 昔のジム仲間がその岩の左奥の3m弱位の岩を一生懸命触っている。そして、遂にそののっぺりとした、何となく僅かな凹凸のある壁を登る。すると、外の人たちもそこを触りだす。小生もスタートホールドを触ってみたら、僅かな凹みだった。

 先に登った岩の正面のポケットで出る課題をやっている人達がいるので、その人達の真似をしてみる。

 2本指くらいの余り深くは無いポケットと右のカンテで離陸し、右斜め上のリップを中継して真上のスローパーを取ると言うムーブの様だ。どちらかと言わずとも苦手なムーブである。

 でも、一応ポケットに指を掛けカンテに手を添えて離陸を試みる。

 両手をほぼいっぱいに開いて、ほぼ真下の斜めのフレーク状のカチスタンスに左足を置いて離陸を試みるが、全く離陸が出来ない。右足に置き替えて少しキョン気味に出てみたら、意外と楽に離陸ができた。調子に乗って、そのまま右手を右斜め上あたりのカンテのスローパーに飛ばしてみたら、その手が留ってくれた。やったー。

 またまた調子に乗ってそのまま右手を飛ばす。がしかし、真上のスローパーをほんの少し触っただけで落ちてきた。

 先にやっていた2人もそのスローパーが留らないで何回も繰り返している。何となく蒲鉾状にうっすらと出っ張っているから、それをラップ気味に持とうとしているのだが、それが出来ないでいる。

 先に登っていたうちの一人の一緒に10級を登った人が、昔のジムの仲間に、そこのムーブを教えてくれと呼びかける。すると、別の若い人がそこのムーブをやって見せてくれる。

 リップのスローパーを単純に真下から真っ直ぐに持っている。それで持てるんだ。小生もその持ち方でやってみたら、そのスローパーが持てた。そのまま手を添え、左足を上げ、より上のホールドを探ったが、見つからず力も尽きた。

 それを見ていたボルダーは殆どやったことの無い人が、ルートではあんなムーブは出てこないからなぁ、あれが出来るのってやっぱりボルダラーなんだ、と言っていた。確かに、小生は以前は殆どやらなかったダイナミックなムーブを最近では結構試みるようになっているから、ボルダラーらしく見える様になってきたのかなぁ。

 皆が上の目的の岩に行くと言うので、小生も一番後ろから付いて行く。なにしろ歩くのが遅く、すぐに離されてしまうから、ということでの一番最後からの出発である。

 最初は前回のイベントのときに磨いたスラブの横を登り始めたが、すぐに引き返し、その先の谷の斜面に取り付く。

 ほんのちょっとした踏み跡に入り、僅かに登ると急に傾斜が増してくる。下に草は殆ど生えていないから、その点では歩きやすいと言えるのだが、何しろその傾斜が半端ではない。それをほぼ真っ直ぐに登って行くから、なおさら大変である。一番後ろを良いことに小生は怠け者の馬よろしく少しジグザグに登って行く。そんなことをするとますます遅れてしまうのだが、そんなことは言ってはいられない程の傾斜なのである。

 どれくらい登っただろうか、大きな岩峰が現れる。その辺から上を見上げると、岩だらけである。その中に、大きな岩が大きな岩に寄りかかったような感じで洞穴を形作っている岩がある。その洞穴の天井の隙間を登ろうと言うことらしい。所謂ルーフクラックである。それもオフィズスとかいうサイズらしい。今回の仲間は皆そこを嬉々として眺めている。

 ここまで登ってくるのにどれくらいの時間がかかったのだろうか。そこに案内してくれた仲間に言わせれば20分位らしいのだが、なんだかそれよりはもっと早くに着いた気がする。

 一緒に10級を触った人は前にもここに来たことがあるらしく、その時にそのルーフクラックにトライしたらしいのだが、その時は一人だったらしく、恐くて途中で諦めたらしい。先ずはその人が再度のトライを始める。

 薄暗い洞穴の中で、何人かの人が両手を天井に向けて差し伸べている。下にはそのとき持参した2枚のマットが敷かれている。覗いてみると、天井から足の先と時々手の先が見え隠れしている。その天井に出来た隙間にその人がすっぽりと入り込んでいるらしいのである。

 中に入っていったら、天井から、もう駄目だとか、いやまだもう少しとか、声が聞こえてくる。そして、いきなり二本の足が出てきた。どうやら狭くなりすぎて、その先進めなくなってしまったらしい。

 この課題の説明を少ししておこうか。この課題はジムの昔の仲間がレイバック体勢で、もう一人の昔のジムの仲間はオフィズス登りで、共に一撃で登った課題らしい。グレードは10aだとか10cだとかそんなグレードだという。そして、レイバック体勢で登った人は12だかともいっていたような。

 その天井のクラックを、登ると言うよりも、洞窟の入り口まで僅かに下ってきて、大きな石の上に張り出した今にも落ちてきそうな薄いルーフをマントルして隣の岩、或いはそのルーフの上に抜けると言う、結構長い、そして、最後のマントルも下地は決してよくないから、相当に恐いらしい課題である。

 足を出した仲間は、そこからレイバック体勢に移行しようと、クラックにニーロックしたりして少し動いていたが、結局は力尽きてしまったようで、落ちてしまった。

 その洞穴の出口の、岩の上の壁を少し登って、奥から続くクラックの先のルーフをマントルするという、本来は奥のルーフクラックから続く皆がやっている課題の後半部分に当たるのだが、そこだけでも面白いらしく、皆がそこのところにトライを始める。しかし、そこは離陸して2〜3手進んでしまうと、下は大きな岩の斜めの斜面になっており、その少し先は岩が切れ、2mくらいの段差で、先ほど登ってきた急斜面に続いているという、恐ろしい場所に落ちてくるのである。従って、落ちる事は出来ない課題なのである。

 そこを、一緒に行った仲間2人と、昨夜の仲間2人が登り、そこから苔だらけの急なスラブを登って降りてくる、そのときの恐怖を頻りとしゃべりあう。それを聞いて、最初にクラックにトライした人が、その人は、マントルの直前まではリハーサルしたらしいのだが、マントルは返してはいなかったらしく、おしゃべりの仲間に加わるのだと、続いて挑戦する。

 このマントルだが、一部の例外を除いて、体がルーフの上に上がり、両足も上に上がってからも、なかなかルーフ、或いは隣の岩の上に立ち上がらないのである。なんだかルーフの上に上がってからも、そのまま横に寝たままで暫くゴチョゴチョうごめいて少し上の方まであがってから立ち上がるのである。下で見ているとなんだかすごく恐そうに見えるのだが、本人達は身体はすごく安定しているから落ちる気はしないのだが、なんだか恐くて立ち上がらなかったといっていた。なんだか不思議な課題である。当然小生のグレードではないから、小生一人だけ、カメラマンに徹していた。

 写真を一通り撮り終えるとやることが無い。本当に易しいところを運動靴で登ってみたが面白くはない。周りの岩を偵察に行く。

 その岩のある場所の両側は高い岩峰の側壁の様になっている。左の少し上のほうには尾根の稜線もみえる。その側壁から尾根の稜線にかけての斜面には大きな岩や小さな岩がゴロゴロしている。そんな小さな岩を伝いながら上のほうまで登ってみたが、登れそうな適当はボルダーは見当たらない。どれもボルダーとしては不適である。こんなに有るのにもったいないなぁとか思いながら、みなのやっているルーフクラックの岩の上に回りこんでみる。

 下から見たときはそれほどの傾斜には見えなかったマントルを返してからのスラブが、そこから見ると結構な傾斜で見える。おまけに苔苔である。こんな傾斜のこんな苔苔のスラブを登ってくるのか。改めてトライしなかったことが正解であったことを確認する。

 朝から別行動を取っていた、昔のジムの仲間の二人が皆のもとに上がってくる。このうちの一人がここをオフィズス登りで登った人である。

 それ迄も、その後も、オフィズス登りの人、レイバック登りの人達が、クラック部分を何回と無く挑戦するが、なかなか進展が見られないらしい。後から登ってきた仲間の一人は、まだここを登っていなかったらしく、オフィズス登りに挑戦しだす。

 それを見ていたら、外の人に比べると、クラックの中での上体がはるかに立っている。従って、足はクラックの外にはみ出している。そして、クラックの中で横になっている人に比べると進むスピードが速いのである。あんなことも出来るんだ。しかし、その人を含めなかなか進展が無い。

 それを見ていたオフィズス登りで登った人が、その登り方を見せてくれることになる。

 この人は女性で、大分体格が小さいからか、ほぼ最初から最後まで、真っ直ぐ立ったまま進み、レイバックをすることなく、途中で身体を反転させ、クラックから抜けてルーフに移ってからも、そのルーフの上のクラックの淵を掴むなど、今までの人たちとは大分に違うムーブで登って行く。そうすると、10代のグレードになるらしい。

 その後、オフィズス登りの人が、途中からレイバックに移行するところを何とかクリアーし、先のオフィズス登りの人のムーブをも参考に、遂にルーフ下からルーフをマントルして、ルーフの上に立つことが出来た。

 降りてきて、久しぶりに嬉しかったとか。

 先に、ルーフのマントルを登った一人が、そのときに頑張りすぎてか、胸の筋肉か肋骨を痛めたらしく、一人で先に降りていった。

 後から来た仲間と、ルーフクラックを登った人が、高い方の岩峰の側壁を見て歩きながら、あのクラックはどうの、このクラックはこうのとか言っているので、小生もくっついていってみる。

 結構ガチャガチャした壁に一列のピンが打たれている。ある山岳会の人達が打ったピンらしい。しかし、その間隔が、小生が見てもすごく狭い間隔で打たれている。下から鐙をかけて打っていたのではないかと言っていたが。

 そこから、少し下がったところで、上を見上げながら、頻りとルーフクラックがどうのとか言い出す。小生も上を見上げてみたが、何となく出っ張った感じの部分が見えはするのだが、ルーフクラックはおろかルーフすら見当たらない。暫く不思議な気持ちで上を見上げていた。

 皆の所まで戻ると、先ほどルーフクラックに成功した人が、後から来た昔のジムの仲間二人に、先ほどとは反対の方の上の方にある5.7だかのハンドクラックの課題をやらないかと勧めてる。そのハンドクラックという言葉に反応し、小生も連れて行ってもらうことにする。

 急斜面を少し登ると、真正面に凹角状の面を持った岩峰が見えてくる。上のほうは双峰状になっている。凹角がハンドクラックと言うことらしいのだが、どう見てもより幅が広く見える。上1/3位は完全に双峰状に見えるほど間が開いており、後ろの景色が見えている。そして、高い。7〜8mは有ったかもしれない。斜面の途中に聳える岩峰だから、より高く見える。ボルダーなのだろうか。

 案内してくれた仲間も、これはボルダーかと聞いてくるから、希望を込めて、ボルダーじゃないと答えておく。

 案内してくれた人が先に登り、降りてきたので、本当に5.7か、ホールドの状況は悪くは無いか等を聞いてみる。2/3位登ったところが核心だが、そこまではガバガバで降りて来る事が出来るとの言葉が帰ってくる。

 昔のジムの仲間の一人に続いて、先の言葉を信じ、意を決して取り付いてみる。

 先に登った人達のムーブを真似てみようという意識は有ったのだが、いざとなると、結局は独自のムーブになってしまう。それでも、難しくはないから、ガバを繋いで上に登って行く。

 双峰状になったところで、左側の岩のホールドが無くなる。右の壁を触ってみるが、ガバは見当たらない。どうしよう。ここからならまだ降りられる。

 ワイドクラックになった所に腕を突っ込んでみる。肘を少し曲げてみる。引っ張っても出てこない。なんだか腕が留っている。これしかないのかなぁ。下から、その上にガバがあるとの声が飛んでくる。見上げると、右の岩のカンテにそれらしいところが見える。でも少し遠い。

 ここまできたらもう行くしかない。意を決し、レイバック体勢になって、右足を突っ張って左手を伸ばしたら、そのガバに手が届いた。後はどうやったかあんまりはっきりは覚えてはいないが、何とか右の壁を攀じ登る。

 上に上がってみると、岩の上は薄く尖がっている。そして、裏の地面まで2mくらいありそうである。ここを降りるの? 少し心配していたら、また下から、「ルーフクラックを良く見るように」との声が飛んでくる。そうだそうだ。正面の登ってきた岩の後ろの方を見たが、木が生い茂っていて展望が無い。そうか、後ろか。その岩の登ってきた面を見るように体制を入れ替え、前方を見ると、そこに聳える岩方の上のほうに、張り出しが2m位あるいはそれ以上あるのか、すっきりと、はっきりとしたルーフが見えた。あんなにスパーッと出っ張っていたのか。まっ平らな先端が少し下がって見えるルーフである。あそこにクラックがあるんだ。

 恐る恐る裏側に降り、下まで戻る。

 上を見たら、オフィズス登りを見せてくれた仲間は既に上に抜けるところだった。

 仲間曰く、見てて恐かったー。だそうだ。そして、あそこは自分も最初はレイバックかと思ったとも。

 ルーフクラックの仲間達はその後、レイバック登りの人が、レイバック登りの核心らしいところを越え、レストの出来るところ辺りでスリップしてしまったらしかったが、結局はそこを登った人は出なかったらしい。

 日は既に傾き、5時近くになっている。三々五々降り始める。

 一緒に行った仲間の一人が、クリカラを触るといって先に下って行った。

 一緒に行った、先ほどのルーフのマントルで、痛めていた肘をまた少し痛めてしまったらしい仲間と二人で、どちらかというと少しゆっくり目に下ってきた。

 植樹祭会場を歩いていた時だったか、上のほうから大きな声が聞こえてくる。仲間がクリカラを登ったのだろうか。

 戻ってきた仲間に聞いてみたら、やっぱり登ったとの事。

 一応その駐車場で昨夜の仲間達と別れ、我々は増富の湯を目指して走り出す。

 途中、昔のジムの仲間の自動車に追いつく。やっぱり増富の湯に行くようだ。

 またまた昔のジムの仲間達と駐車場で別れ、チンタラ走り出す。

 明野村、今は北杜市だが、に入る辺りで、またまた昔のジムの仲間の自動車に追いつく。あれー、追い抜かれたかなぁ。そう言ったら、仲間が、我々の出発が遅れたのだという。そうだったかなぁ。既にボケ始めたか。やだなぁー。

 そのまま後を付いて走り、広域農道に入る。

 いつもなら、そこから中央道を横切り、甲府駅の裏を通る道に入るのだが、そうすると、食事するところが余りなくなってしまう。高速を横切る手前辺りで20号線に出ようかと話していたら、前を走る仲間の自動車もその交差点でウインカーを出した。ということは、やっぱり、そこから20号に出るのが正解なのかも知れない。

 途中給油に寄るらしい仲間の自動車を追い越し、甲府市内に入って、以前寄ったことのある中華レストランに入ることにする。

 このレストランは駐車場の2階が店になっているので、駐車場の天井が低く、前回はその1階の駐車場に入れなかったのだが、今回は仲間に見てもらいながら、駐車場に入ってみる。どうやらギリギリだったらしいが、ルーフのボックスをぶつけることなく駐車場に入ることができた。

 前回はタクシー丼だったかを頼んだのだが、今回もそれにしようとこのレストランを選んだのである。が、メニューが前回と全然違うのである。タクシー丼が無いではないか。

 3人でブウブウ言っていたら、一人の仲間が、「ピリ辛なんとかタクシー丼」だったか「ピリ辛なんとかタクシー飯」だったかを探し出す。これだー。皆でそれを頼む。

 やはり高速は大月辺りから渋滞している。でも、来る時に心配した程ではない。

 小生だけであれば相模湖まで20号で行くのだが、今回は電車の時間もあるのでと、勝沼から高速に乗った。

 運転は、レストランから変わってもらっていたので、助手席に座っている。自分の自動車の助手席も久しぶりである。途中初狩パーキングに寄る。

 やはり大月を過ぎた辺りから渋滞が始まる。でも、追い越し車線を走っていったから、少しだけ隣のレーンよりは早く走れた。

 小仏トンネルを抜けると渋滞は解消する。

 高井戸のパーキングに寄り、案内を見ると、首都高は既に工事渋滞が始まってしまったらしく、どこも赤線が点灯している。新宿から環状線に入るのに50分くらいかかりそうだ。

 色々検討の結果、初台で20号に降りる。

 首都高を降りた途端に詰まってしまった。失敗したか。

 その先で工事らしく、なかなか動かない。仕方がないから、その先の交差点を強引に左折して靖国通りに廻る。こちらは空いていた。

 四谷付近を走る。ここら辺は高校生の頃、なんだか女子高の文化祭目当てにうろちょろしたような気がするなぁ。市ヶ谷の自衛隊の前でクランク状に曲がる。そう言えばこのクランク、相当昔に、有楽町辺りから新宿まで行く時に、結構通ったっけ。神田の古本屋街を走る。ここも結構ふらついた町だ。○○書店、なつかしいなぁー。暫し我が青春時代の思い出に浸る。んっ、いかん、いかん。若者は常に前を見て生きなければ。

 もう既に12時に近い。それぞれの仲間の家の近くを回り、1時前に家に帰り着いた。

 それにしても、色々な意味で物凄く濃いボルダリング行であった。


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作成年月日 平成17年10月26日
作 成 者 本庄 章