フィラデルフィアに行ってきました

2001年 8月10日記

 アメリカはフィラデルフィアに行く用事があったので、ついでに、フィラデルフィアでボルダリングをやってきた。7月下旬の火曜日から8月上旬の火曜日までの8日間のうち、20数名の、現地では60数名の大部隊での団体行動のなかでの、自由になる時間は殆ど無い、ほんの僅かの時間でのボルダリングではあったが。

 最初は、リバジーロックという、アメリカのボルダリングの歴史を書いた本の中に紹介されていたところに一緒に行った仲間の一人と行く予定であったのだが、現地でのスケジュール確認の結果とてもそんなまとまった時間は取れそうにないということが判明し、結局はそこには行くことは出来なかったのだが。

 このリバジーロックは、フェアモントパークという、後で聞いた話しだと、市内にある公園としては世界一広いという公園内にあることはなんとなくわかっていたし、用事のある場所も同じフェアモントパークの中ということもわかっていたので、スケジュールの合間をなんとかかいくぐって行ける隙を狙うこととした。

 ホテルにチェックインし、ホテル内で早速フィラデルフィアの地図を探す。ダウンタウンの地図はゲットできたものの、もう少し広い範囲の地図が手に入らず、国内で手に入れた情報にある、76号線から1号線に乗って、ワシントンアベニューだかからAラインに移る曲がり角のところの手前でリバジー通りに左折して行けという、多分その辺に岩のある、その場所が皆目見当がつかない。

 同じ公園の中だし、何とか歩いて行けないかとも考えたのだが、何しろ世界一広い公園だから、歩く方向すらわからない。なんとなく駄目かもしれないという不安を抱きつつ次の日を迎えることになる。

 実質の初日、ホテルから表向きの目的の会場までバスで移動する。やっぱり目は岩を探す。と、所々道端に岩壁が露出している。これなら、リバジーロックでなくとも何とか望みはありそうだ。

 会場に到着してみると、その会場の脇の道の向こう側も露岩の壁になっている。すぐにでも行って見たかったが、車の往来も多いし、傾斜も無いので、止めた。

 その日はバスは来た道を引き返した。

 次の日、アルバイトが終わって、またバスで送ってもらったのだが、会場横の道がこの日から一方通行になってしまったので、バスは来た時と違う道を通る。これ幸いと、きょろきょろ岩を探す。

 このフェアモントパークとはシルキル川とかいう川のほとりに広がっており、バスはその川沿いに市内方向に走る。ケリードライブとかいう道である。

 バスが岩をくり抜いたトンネルを潜る。トンネルを出た所で、何の気無しにトンネルの出口の岩の方を振返る。すると、川側の方に少し被った岩の面が見え、その面にチョーク跡と思しき白点が見える。一瞬目を疑う。本当か。ここならアルバイト場所からでも歩いて来れる。

 次の日、予報は雨。でも昼から少し時間が取れる。よし、偵察に行こう。しかし、雨だし、本当に時間があるかどうかわからない。靴は持たずに行くことにする。

 昼過ぎになんとか少し時間ができる。雨は降ってはいない。相変わらず暑い。しまった、靴を持ってくるのだったと後悔したが仕方が無い。岩も登れるかどうかわからないし。

 一人、仲間から外れ、歩き出す。反対方向へ歩く人の並がすごい。なにしろ、世界レベルのイベントが行われているのだから。で、実は我々はそのイベントに参加するためにわざわざ日本から来たというのが本来の目的だったのだが。

 20分位歩く。でも、トンネルあるいは岩らしい物が見えて来ない。確かにその先に岩があることだけは確かなのだが。

 人に聞けば簡単なのだろうが、これが聞けない。悲しい話しである。

 そんなに時間がある訳でもないし、この先どれくらい時間が掛かるかわからない。行って見ても、チンケな岩かもしれない。ということで、この日は引き返すことにする。

 帰りのバスで再度岩の場所を確認する。あらま、あと5分も歩けば岩だったのだ。明日は時間が結構有りそうだから、明日行く事にしよう。

 朝起きると、明るくない。なんかいやな予感がする。窓の外を覗くと、なんか霧雨のようだ。無理しても昨日行って岩の写真だけでも撮ってくれば良かった。でも、今日は夕方まで時間がある。何とかなるだろう。

 日本から持参した、帰りに荷物が増えたら捨てて帰っても惜しくない、かさばらない使い古しのスリッパ靴を持って、仲間より一足先に会場に出発する。

 ホテルを出ると、道は乾いている。霧も濃くない。なんだ登れるではないか。

 バスを降りて、昨日歩いた道を再び歩き出す。もう日が照っている。昨日に比べて早いせいか人出も少ない。でも、暑い。

 昨日の地点を過ぎ、そこから5分程でトンネルが見え出す。

 鉄道の鉄橋の橋桁を潜ると川の淵まで張り出した岩が見える。目的の岩の裏側だ。近付くと遊歩道のために削られた真新しい岩の面が見える。遊歩道のすぐ脇だ。

 廻りこむと、そこには130度前後に被った、高さ5m、幅10m位の岩の壁があった。

 途中2m位の高さの所にバンドが走り、4m位の所にもアーチ形にバンドが走る。左には凹角状に大きな溝が上まで走っている。右は傾斜が少し緩くなって少し低くなっている。上はなだらかな草付きの斜面となってトンネルの上の方に続いている。下地は平らな芝生である。なにもいうことはない。

 先ずは岩の写真を撮る。仲間が聞くとすごく怒るだろうが、なんたってこれが小生の今回のメインの目的なのだから。

 この岩は大きな岩の一部で、トンネルの向こう側にも大きな岩壁が見える。自動車道路の向こう側も公園のようだ。

 道路を渡って少し偵察に行く。ここも何とかロックガーデンとかいうらしい。左側の崖に沿って公園の奥に進む。誰もいない。岩も見えない。この先有りそうな感じもしない。一人である。少し恐い。途中でめげる。引き返す。

 最初の岩に戻って、荷物を置く場所を探す。なにしろ、知らない場所で、すぐ脇をいっぱい人が歩いていて、おまけに一人だし、荷物を誰かに持って行かれるとホテルにも帰れないし。それになにより、折角撮った写真がなくなってしまうと、ここに来た意味も半分になってしまうのだから。

 道から少し奥まった岩の下に靴などを入れて来た袋を置いて、貴重品の入ったウエストポーチはつけたままで準備を開始する。

 ストレッチもそこそこに、右の易しそうな場所を登って見る。高さは3m位か。傾斜も垂直位。上に抜ける。ガバガバだから10級位か。こんなとこにもチョーク跡はある。でも、やっぱりウエストポーチが邪魔だ。思案の末にウエストポーチは外し、袋と一緒に置く事にする。

 次はバンドのトラバース。ガバが無い所も有るし、被っているから少し難しい。でも8級位か。途中1回落ちたから7級にしておくか。

 左のガバガバの凹角を登って見る。簡単。上まで行って、岩の上に抜けようかと思ったのだが、どうも岩の上を歩いている様子が無い。チョーク跡もない。この岩は上には抜けないのかもしれない。上に抜けると草や花を踏むことにもなるし。それに荷物も見えなくなってしまうし。

 結局、上に抜けること無くクライムダウンをする。途中少し甘い感じのホールドがぬめる。易しいけど、少し恐い。降りて来たから8級。

 その上のアーチ状のフレーク気味のバンドをトラバースする。こっちはガバガバだし、足も一杯ある。高さがあるし、少し長いから8級。全部8級だ。

 日が照っているから結構暑い。汗をかく。でも、岩が被っているから登っている時は日には当たらない。そして、その日陰で休む。

 脇の遊歩道を頻繁に人が通る。声を懸けてくれる人達もいる。遊歩道側の寝た所を真似して登る子供もいる。それを真似て登る大人もいる。

 何か落ち着かない。すぐにまた岩に取り付く。今度はバンドの下からSDスタートをして見る。少し難しい。7級にしておくか。

 その左をまたSD。これもまぁ7級だな。

 一番左のカンテをカンテの左からスタート、右に廻りこんでそこを直上。出来たら多分3級以上だろう。

 スタートはややガバ。その先は被っていて指の第1関節まではかからないカチだ。傾斜も130度はあるし、もしかすると2級とか1級かもしれない。

 なかなか3手目が取れない。ヒールフックもやってみたり、いろいろムーブを探る。

 両手スタートの後、左手をカンテの左面の少し上のカチに持って行くと最初に狙ったカチの次のカチに右手が届くことを発見。最初の、カチからカチへのクロスは諦める。本当はそっちの方が格好がよいのだが。

 その右手カチから右手ガバまで手を飛ばす。が、なかなか飛ばない。触るのだがもう一つ届かない。

 少し休んでまたやる。今度は足を右に持って来ておいて右手を飛ばす。なんとなく引っ掛かる。でも持てない。

 そのホールドは下から辛うじて触れるから、下から確認する。もしかすると、少し右を狙っていたかもしれない。もう少し左でも良いかもしれない。

 休む間もなくやって見る。届いた。でも、片手ではぶる下がれない。なんたって被っているのだから。もっと足を探さねば。

 今度は左右のホールドで岩を保持しつつ、もっと右まで足を送ってキョン気味に足を置いて見る。左手を放しても右手だけで保持出来る。左手放して右手に沿えることができた。やったー。

 マウンテンバイクに乗ったお兄ちゃんが近づいてくる。いきなりサンダルで少し岩にぶる下がったかと思うと、アーチ状の高い方のバンドのトラバースを始める。一番上のホールドを掴んで降りてくる。次は下のバンドのガバから上のバンドのガバまで両手ランジして、同じように上までいって降りてくる。どうやら課題を教えてくれたらしい。

 それではと、さっきからチャレンジしていたカンテを下から上まで指差して、無言でここはどう登るのか聞いて見る。でも彼は、サンダルだからか、そこは無理だという感じで両手を広げる。残念。

 そのお兄ちゃんはすぐに行ってしまう。しまった、リバジーロックのことを聞くんだった。おうそうだ、お兄ちゃんの登っている写真も撮るのだった。忘れていた。重ねて残念。

 少し休んで、その先のムーブを探る。

 両手持ちのできたホールドを背伸びして持ち、スタート。左足を高く上げて左手を縦カチまで飛ばす。が甘いために持てない。というよりも、全く効かせることができない。

 少し右手を右にずらして、身体を右に持って行って縦カチに飛ばして見る。僅かにかかるが持てない。

 休んで、また繰り返す。そろそろ昼を廻ったようだ。太陽光が段々岩の中まで差し込むようになり出す。日陰がなくなってくる。岩の前の少し放れた場所の木の下で休む。もしかするとこちらの方が涼しかったかもしれない。

 何回繰り返しただろうか。多分何回でもないのだろうが、何回もやっているように感じる。やっぱり一人だし初めての場所だからゆっくりと休んでいられない。十分に休息すること無く続けて登ってしまう、いつものパターンである。

 1時間半位しか登っていないが、汗もいっぱいかいているし、疲れて来た。カンテのプロジェクトも完成する見込みも無いし。

 最後に1回、またカンテの課題に挑戦して帰る事にした。

 それにしても暑い。木陰に入れば涼しいとはいえ、暑い。今日の日のためにと奮発して買ったTシャツも台無しだ。もう少し濃い色にすれば良かったと悔やむ。そうすれば汚れも目立たなかったかもしれないのだから。

 その後仲間と合流する。そして暫くの間、ついにやったという達成感と、とても気持ちの良い軽い疲労感に浸っていた。

 帰りのフィラデルフィアの空港で、夏休みで遊びに来た孫娘を送りに来たという日本人のおばあさんと日本語でお話しをした時にリバジーロックの話しをすると、リバジーロック自体は知らなかったが、場所的には我々のいた場所と大分近い所の様だった。とはいえ、歩いて行ける場所ではなかったようだが。

 乗り継ぎのヒューストン空港で本屋を見つけ、アメリカドライブアトラスを買う。帰りに買うというのも間抜けな話しだが、次ぎなるアメリカボルダリング行に向けて。

 お影で帰りの飛行機では、プエブロだ、ヨセミテだ、ビショップだと、十分にアメリカのボルダリングを楽しみながら、ほとんどを眠っていた。次ぎなるアメリカボルダリング行を夢見つつ。


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作成年月日 平成13年 8月10日
作 成 者 本庄 章