小川山その21

2005年 4月12日記
 日曜日の日に、ほぼ1年半振りに一人で小川山に行ってきた。

 仲間から東北へのボルダリング行を誘われていたのだが、何となく乗り気がせず、態度を保留していたら、相棒がよんどころない用事で日曜日まで家を空けることになった。つまり、土日は一人になってしまったのである。しかし、一人で遊びに行くのもと、結局は予定の無いまま土曜日をウダウダと過ごしてしまったのだった。

 そんな土曜日の夜中、転寝から目を覚ますと、まだ12時である。夕方近くから寝てしまったようだから、完全に目が覚めてしまう。なんだか中途半端な時間に寝てしまったようだ。

 といって、またまた夜をウダウダと過ごすのも何となく勿体無い話である。

 仲間の一人が最近小川山に行ったといっていたことを思い出す。その仲間は、空いている小川山は今しかないからといっていたっけ。じゃぁ真似をして小川山にでも行ってみるか。今から出れば高速の夜間割引を使えるし。

 あたふたと仕度をして家を出る。勿論小川山夜行日帰りのためである。

 首都高から中央道に入る。

 さて、どこまで高速で行こうか。時間も時間だし、夜間割引も適用されるから、勝沼インターまで行ってもよいのだが。でも、一人だし、あんまり朝早くに行ってもしょうがないしなぁ。色々悩んでいたら相模湖インターまで来てしまう。やっぱり甲斐大和道の駅で寝ることにするか。結局何時ものように相模湖インターで国道20号に降りる。

 道の駅には3時過ぎに到着する。半分近くのスペースに自動車が停まっている。寝袋を取り出し、車中で仮眠する。

 朝方、明るくなってからもしばらくうとうととしていたが、遅くなってもと起き出したら、まだ7時前だった。時間的には丁度良いか。

 甲府駅の裏から茅ヶ岳広域農道を使って信州峠を目指す。でも、峠の方はまだ雲がかかっているようだ。小川山は大丈夫だろうか。

 信州峠の道は川上村に入ると急に細くなるのだが、峠から300m程下ると道は広くなっている。川上村側で以前からやっていた道の拡幅工事もやっとここ迄来たか。でも、この300mの工事に今後どれ位かかるのかなぁ。今年中は無理だろうなぁ。

 周りの山に未だ雪が残ってはいるが、廻り目平までの道に雪は無い。心配した雲も完全に晴れている。

 竿が外され、未だブルーシートに包まれたままのゲートを通り、駐車場まで行くと、既に30台ほどの自動車が停められている。廻りには幾つかのテントもある。無論雪は全く無い。

 太陽がいっぱい照り付けている。既に20度近くまで温度は上がっているだろうか。いくらか汗ばむくらいだ。フリースのズボンも持ってきたが、既にその時期ではない。7分のズボンと一番下に半袖のTシャツを着込む。

 久しぶりの小川山である。さぁてどこに行こうか。そうだ、準備運動も兼ねて、未だ行ったことの無い「朱雀岩」にでも行ってみるか。以前一度行ってみたのだが、迷ってしまって行き着けなかったからなぁ。それに、黒本に紹介されている岩はそれで全部見たことにもなるしなぁ。

 「きたない大岩」の前を通る。ここの「左側壁のカンテ」もやってみたいのだが。

 小生のHPで、この「きたない大岩」の写真が足りなかったことを思い出す。序にアップもかねて1つ登ってみるか。

 デジカメをセットし、正面を触ってみる。

 こんなに下地が低かったっけ。色々触って、結局右の方が背が届きそうなので、右のほうを登ってみる。

 ガバガバだけれど、こんなに難しかったっけ。少しだけ怖かった。

 少し汗ばみながら「フェニックスの大岩」までやってくる。「朱雀岩」はここに降りてきている沢を少し入ったところにあるらしい。前回は、トポが無くて、その沢を遡り過ぎてしまったのだが、今回はトポを参考に沢沿いのケルンを目指す。

 沢床にはまだ少し雪が残っている。最初は堰堤の無い左側の沢から入ったのだが、雪が思ったよりは多めだったので、途中少し戻って小さな尾根を乗っ越し、右側の沢に移る。石の場所は、この二本の沢が合わさる場所の右岸という事なのだが、その左から沢が交わる手前でケルンが現れた。

 おかしいなとは思ったが、もしやとそこから伸びる踏み跡で脇の薮に入ると、綺麗な少し被った面を持った石が現れる。下地は結構踏まれた感じである。荷物を置いて、トポと見比べると、どうやら朱雀岩に間違い無さそうだ。

 この岩の少し被った綺麗な面には「朱雀門」という二段の課題があるのだが、細かいホールドで遠いリップまで飛ばなければならないらしい。そのスタートホールドと思しきホールドを触ってみたが、スタンスも殆ど無く、とても小生に持てるホールドではない。

 最初からその二段が目的ではないから、その右のカンテの課題を見てみる。3級らしい。

 スタートホールドを探す。無い。先ほどの「朱雀門」のスタートホールド程のホールドも無い。カンテを持つのだろうか。では、スタンスは? やっぱり無い。少し高い所にホールドがある。あそこに飛びつくのだろうか。でも、見た目にはガバには見えないし。

 その右の壁にも課題があるらしいから、そっちを見てみる。やっぱりホールド、スタンスが分からない。どうも小生にはこの石では遊べないようだ。

 最初の目的である、全岩訪問の完成を祝し、靴を履いてセルフによる記念撮影を行う。

 その右にも石がある。こっちはガバガバのフレークがある。その下の少し窪んだところにはチョークのマークの様なものが残っている。折角仕度をしたので、そこを登ってみる。でも、石の上はぼさぼさだし、枯葉も残っているし、トップアウトできそうにないので、途中から飛び降りた。

 戻る途中であまりにも天気が良かったし、気持ちも良かったので、林道の残雪、沢水の飛沫、遠くの岩峰の写真を撮ってしまった。

 さぁ、次はどこに行くか。やっぱり「神の瞳」かなぁ。それとも、「石の魂」かなぁ。

 結局、そのままゲートを出て舗装路を歩き、途中から石楠花遊歩道に降りる。

 T字路に出る。ここはどの辺だったっけ。とりあえず下流方面に行ってみるか。

 堰堤のところ辺りから人が上がってきた。やっぱりここも人がいるのか。まぁ、最近はこのエリアも人気だからなぁ。

 その人の上がってきた踏み跡を降り、沢沿いを歩く。

 川原にマットが見える。やっぱりなぁ。

 そのまま踏み跡を先に進む。

 見慣れた大きな石が現れる。忘却岩だ。前回来たときは、って何時だったか忘れるくらい前だった気がするが、20人近くはいたような、そんな記憶がある。でも、今回は誰もいない。じゃぁ、ここで登るか。

 ここの正面のマントルの課題がまだ登れていないのだ。本来はSDの「忘却の河」という課題なのだが、その課題をスタンドアップスタートでマントルを返すバージョンである。最後のマントルまで行ったことがあるのだが、左足に乗り込むことが出来ず、未だに登れていない課題である。

 斜めの淵の丸いクラックというかフレークというか、その淵を右上してリップ直下のスローパーで左足を上げて行くという感じだったと思うのだが。

 クラックを右上してその右端で両手を揃え、右手を出していたと思うのだが、その右端に両手をマッチできない。やっぱり弱くなっているのだろうか。でも、若しかして、クラックの右端を持った右手をそのまま飛ばしてリップ直下のスローパーを取ったほうが楽かも知れない。

 やってみたら、手は届いた。でも、留まらない。何回か同じムーブをやってみたら、段々手が留まるようになってきたのだが、右の方のスタンスに伸ばした足が滑るようになってきた。

 今回は何時もの靴ではなく、もう一つ持参していた、ビブラムでリソールしたベルクロ靴をはいていたのだ。この靴、前回の笠間でも履いてみたのだが、あまり良くなかったので直ぐに何時ものカチ靴に履き替えてしまった靴である。やっぱり靴だろうか。何時もの靴に履きかえる。

 何となく足も滑りにくくなった気がする。手も確実に留まるようになってきた。

 次はどうすれば良いのだろう。何となく、スローパーは左手で取って、右手でリップを取ってマントルしたような気もしてくる。そうするためにクラックのリップの右端で両手マッチしていたのだろうか。いや、確か、手を飛ばせなかったから、普通の人はやらない両手マッチというムーブをやっていたような。どっちだったっけ。

 この課題は、少し被っているし、右手を飛ばすのが少し遠いから、疲れるのである。休む時間も長くなってくる。少し暑いから、その度に水を飲む。

 その課題の左側にも課題が設定されている。「忘れん坊」という課題である。

 この課題、離陸が出来なかった記憶がある。右側の斜め手前上に延びる薄い凹角とそのカンテにホールドがあるといえばある感じだが、その左側のフェースにはホールドとなりそうなものは殆ど無い。左に浅い斜め手前に伸びるクラックがあるが、そこには殆ど指は掛からない。

 リップの少し下にホールドになりそうな場所があるから、そこを使うのだろうが、そこまでのホールドが問題である。

 あっちこっちを撫で回し、足を捜し、離陸を試みる。最初のスタンスはちょっとした岩棚状の所に右足だと思うのだが、しかし、ことごとく失敗する。正面の課題に戻る。

 この正面の課題、下地は良いから、マットは敷いてはいない。しかし、少し後に石が出っ張っていて、落ちて後にひっくり返るとその石に頭をぶつける可能性がありそうなのでその石に持参していたマットを被せている。

 段々リップ下のスローパーに確実に右手が留まるようになってきた。でも、身体を上げて行くとその手は効かなくなってくる。相変わらず進展は無い。昔はこのスローパーでももっと持てた気がするんだけどなぁ。

 またその左に移る。

 何気なく下を見たら、その岩棚の少し上に結構顕著な斜めのカチガバ系のスタンスが見える。ひょっとしてここに左足キョンか。

 右側のカンテを両手で掴み、少し横を向いてそのカチガバスタンスに左足のアウトエッジをかけてみる。掛かった。左手をそろそろ伸ばしてホールドを探る。やっぱり持てそうなホールドに手は掛からない。手を探っているうちに身体が剥がされる。

 この課題の下地は僅かに傾斜しており、おまけに丁度落ちてきそうな場所に表面の平らなちょっとした石が出っ張っている。でも、まだ飛び降りなければならないほど上には行けないから、マットは右側の課題の下の石に被せたままである。

 ここも、カンテを掴んで壁に入り込まなければならないから、少し疲れる。適当に切り上げて正面に戻る。

 正面の課題である。

 進展が見えないから、両手マッチを試みてみる。しかし、確か以前は出来たはずのそのムーブが出来ない。やっぱりクラックの淵はスローパーチックだから、今回はいくらか持ちにくくなっているのかなぁ。

 その右側の「忘却の果て」という課題を見に行く。

 ホールドらしい所にチョークが付いてはいるが、そんなところ持てるのかという感じである。やっぱりどっかで飛ぶのかなぁ。

 左の課題に行き、左足をキョンして、思い切り伸び上がったら、上の方で少し指が引っ掛かる。あれー、あそこ、指が掛かるじゃん。

 どういうわけか、カンテをしっかりと掴んでキョンが静かに出来るようになっている。右手のカンテが持てているようだ。その右手を頼りに伸び上がったら、左手がホールドに掛かった。わっ、持てる。キョンを解除しようとしたら、岩から剥がされた。でも、とても取れそうにないと思った次のホールドが取れた。やっぱり、弱くはなってはいなかった。と思っても大丈夫だろう。そうしよう。

 何回かもがいていたら、そのホールドに両手を沿え、身体を正対に向けることが出来るようになってきた。じゃぁ次はスタンスだ。

 次に上げるスタンスを物色する。

 左のほうに岩がちょっとだけ剥がれた跡がある。ここに掛かるかも。右は凹角の淵にちょっとしたスタンスがある。ここか。

 足を上げてみる。やっぱり手が利かなくなってくる。もう少ししっかりした足が欲しい。飛び降りる。

 やっぱり、下の石に足が掛かる。でも、まだ高くは無いし、石の表面も平らだからダメージは無い。そのままマット無しで続行する。

 何となく展望が少しだけ開けてきたから、調子に乗ってリップの上を見にいてみる。

 少し奥まで手を出せば何となく効きそうな感じである。いや待てよ。その少し左には僅かではあるが、ホールドになりそうな場所があるではないか。そこまで手が届けば確実にマントルが返せそうだ。取らぬ狸ではある。

 スローパーに両手を沿え、持ち替えて左手を出してみる。どこも悪い。また石の上に飛び降りる。今度は少しだけ足が痛かった。

 大分疲れてしまったようだ。少し飽きても来たし。じゃぁ次は「神の瞳」か。お腹が空いていたので昼食にした。

 マットを畳み、そのマットに荷物を入れて歩き出す。

 「神の瞳」ってどこだったっけ。歩いていたら人が一人取り付いている扇岩まで来てしまった。これじゃぁ来すぎだ。

 トポを調べたら、堰堤の傍ではないか。踏み跡が岩の正面にぶつかっているという印象があったものだから、踏み跡を只真っ直ぐに歩いていたのだが、今までにそんな場所あったっけ。堰堤の傍に戻ってその辺を歩いたが、それらしい場所は見当たらない。

 再度トポと見比べる。あれが「隠れ岩」のはずだから、もう少し下流かなぁ。

 笹薮を歩いて川原に出ると、人がいる「第二河原岩」に出てしまう。えっ、あれは「隠れ岩」じゃないのか。またまたトポを見る。「瞳岩」って、「谷川岳」のある岩だったのか。じゃぁ、「隠れ岩」と思っていた岩が「瞳岩」だったのか。行ってみたら、やっぱりそれが「瞳岩」だった。

 しかし、下地には僅かではあるが融けかかった雪が残っている。おまけに丁度「神の瞳」の真下ではないか。雪をどかして見ても、地面もグチャグチャだろう。仕方がない。諦めるか。

 でも、少しだけ触ってみたら、ムーブは完全に忘れていた。

 くじら岩は多分人がいっぱいだろう。じゃぁ「石の魂」だな。

 朝来たときに金峰山荘の前の水道で歯を磨いていた人がいたことを思い出し、その水道によって蛇口を捻ったら水が出るではないか。暑いのでさっきから半分以上も飲んでしまった水筒の水を汲みかえる。

 キャンプ場を通ってカモシカ遊歩道に入る。

 暫く歩くと人の声が聞こえてくる。何か嫌な予感。

 やっぱり「石の魂」の前には3人ほど人がいた。でも、一応「石の魂」に寄ってみる。

 やっぱり「石の魂」の下にはマットが敷かれ、その右側の課題にも人が取り付いている。仕方がないから、少し見学をしてから、雨月岩のほうに移動した。

 雨月岩の近くで人とすれ違う。「静かの海」の岩に人がいるかと聞いたら、人はいるが登ってはいないということだった。

 雨月岩の下の岩の前で立ち止まる。この岩は、以前一緒に来た仲間が「雨月」を登っているときに結構一人で遊んでいた岩である。そういえば、右側のカンテを回りこむ課題は以前登った記憶はあるが、真ん中を登った記憶が無い。カチカチの感じだから久しぶりに登ってみるか。

 先ずはカンテの左側。

 カンテを使って良いのかなぁ。使わなかったらホールドがないなぁ。

 カンテを右手で掴んで右足を少し高くに上げて離陸してみたら離陸は出来た。でも狙った左上のホールドには届かなかった。

 左のクラックの右側を触ってみる。

 足が無い。クラックの左のガバスタンス使ってもよいのかなぁ。使いたくはないが。で、結局使ってしまった。

 確か、この岩の少し下の沢の中にも石があったっけ。多分人は来ないだろうし、グレードも適当そうだから、行ってみるか。

 少しだけ高い岩だが、カチホールドはそこそこありそうだ。下地には岩があるから、マットを広げて下に敷く。

 ホールドを触ってみる。左足スタンスで離陸してみる。思ったよりも悪い。

 人がやってきた。先ほど石の魂の前にいた人達だ。でも、何でここなの。聞いてみたら、その内の一人が以前ここの課題を登れなかったので、また来たとのことだった。まっ、仕方がないか。

 小生のマットは甲府でジムをやっている人が作ったマットだから非常に薄いマットである。彼等のマットは厚いし大きいから、そのマットをメインに敷いて、小生のマットはその後ろの岩に立てかけた。

 カチカチカチと、3手か4手は行けるのだが、その先のリップが遠い。足を上げるにはスタンスが高すぎる。中々リップまで行けない。

 小生も、何とかその人たちと同じホールドまで行けたのだが、その先で行き詰まる。

 誰かが、この岩は他の花崗岩とちょっと違うのではないかと言う。そういえば、何となく違うような気もする。なんとなく花崗岩ポクは無いのだ。スベスベの壁にカチカチのホールド、スタンスなのだ。それ程カチカチなのだ。

 一人の人がリップを掴む。しかし、ずるずるずると滑り、登れなかった。やっぱりリップは悪いのだろうか。

 また別の人がやってくる。仲間のようだ。その人は一撃する。その時、我々の持つホールドの一つ先のホールドを持って、悪い、と言っていた。

 先にリップで滑った人が、リップに飛びついて登る。

 また別の人が来る。やっぱり仲間らしい。その人、リップ直下の下からでは見えにくいカチで中継し、リップで相当に振られはしたが、一撃する。

 最初からの二人と小生の三人が残される。

 色々な人の登りを見ているうちに、右のカンテ近くのスタンスにヒールを掛けることを思いつく。やってみたら、左手が出せた。しかし、ホールドまでは届かなかった。もう少ししっかりとヒールがかかればなぁ。

 今まではマットを動かさずにマットの下の地面から離陸していたのだが、その時からはマットを少し後ろにずらし、地面から離陸しやすいようにして離陸する。そして、右足を左足に踏みかえる。その時、足を踏み外す。やっぱり疲れてるのかなぁ。

 気合を入れて登ってみる。最後のところで少し躊躇したが、思い切ってリップに飛んでみる。右手がリップに掛かる。しかし、第一関節しか掛からなかったから掴むことは出来なかった。

 着地したら、ショックが無い。やっぱりマットの威力なのか。だったらもう少し真剣に跳ぶんだった。

 三人でかわるがわる登るが、中々先に進まない。

 またまた足を踏み外す。待てよ、小生の靴、エッジが殆ど無かったんだっけ。だから足が外れるのか。ならば、最初に履いた、リソールしたてのエッジのある靴を履いてみるか。そう思って、ビブラムで張り替えたベルクロ靴に履き替えてやってみる。

 少しデッド気味に取っていた左手が静かに取れる。その左手を上に飛ばし、右手で一番しっかり持てるカチを取る。ここからが動けなかったところだ。

 左足を思い切って上げてみる。先に一度上げてみたスタンスだ。そのスタンスに上げると、もう少しで届かなかった、最初に登った人が悪いといったホールドに静かに手が届いた。持ってみたらやはり良くは無い。そのまま次に登った人が使ったカチをクロスで持ってみる。これは持てる。しっかりと持って体勢を整え、更に直ぐ上のリップを静かにしっかりと掴む。

 あんなにも遠いと思えたリップが、なんだかとってもあっさりと取れた。下からの声援に励まされながら、慎重にホールドを選び上に抜ける。

 こんなにも違うものなのか。殆どのホールドが苦労なく持てる。高すぎると思われたスタンスにも何の苦も無く乗れる。まるで違う課題のようだ。下で見ていた人達も登りが全然違ったといっている。靴でこうも違うのか。

 この靴、本来は別のメーカーのソールの靴なのだが、普段履いている靴と同じソールに張り替えてみた靴である。ソールが硬ければ力の無い人には都合が良いだろうと考えてやったことなのだが、仲間にそのことを話すと、フリクションで売っている靴のリソールをわざわざ別のメーカーのソールでやるなんて有り得ない事ともいわれた靴である。実際何回か履いたが、失敗かなとも思った靴である。

 しかし今回は、ソールの硬軟ではなく、エッジの有無が顕著に表れたのだろう。そのエッジの硬軟も影響していたかも知れないが、やっぱりカチスタンスにエッジの丸く磨り減った靴は物凄く不利だったということだったのだろう。やっぱり新しい靴に履き替えることにするか。折角買ってもあることだし。

 その後、少し他の人たちの登りを見物していたが、寒くもなってきたので、先に下ってきた。

 因みにその仲間の人たちは静岡の富士川から見えたらしい。以前富士川のボルダーエリアでお世話になった方ともお知り合いのようだった。

 駐車場に戻ると、30台ほどあった自動車の半分位がいなくなっていた。時計を持ってはいなかったので、近くに居た方に時間を聞いたら、4時3分だと教えてくれた。

 まだ少し時間はある。そのまままたきたない大岩までいってみる。左側壁のカンテを触るためである。途中の水場の蛇口を捻ったらやっぱり水は出なかった。

 カンテのホールドってどこだったっけ。適当に持って離陸する。次は左上の縦カチだ。左手を飛ばしてみたが、既に指皮は無く、そこをホールドしてやろうという気力が大いに欠けていた。

 スタンスはどこだったっけ、確か左手はそんなに飛ばさなくとも取れたような。色々やってみたが、身体が岩に留まっていない。剥がされてしまうのだ。その度に、斜め右後ろの一段高い場所に飛び降りる。

 風が結構強い。従って寒い。やる気も殆どなくなっている。少し早めだけれど帰るか。

 信州峠を越えたところでまだ5時を少し廻ったところである。以前から気になっていたのだが、何時も暗くなってからしか通らなかったから、未だ寄ったことの無かった黒森鉱泉にでも寄ってみるか。

 看板に従って細い道に分岐し、殆どすれ違いの出来ないその細い道を進むと、程なく一軒の農家風の家に入って行く。見ると、確かに離れのような建物の屋根に半分禿げかかった「黒森鉱泉」と書かれた看板が掲げられている。

 一人のおばさんが裏のほうからやってきたので、鉱泉に入れてもらえますかと聞いてみたらどうぞと言ってくれる。そして、今からかと聞くからそうだと答える。序に何時まで入れるのかと聞いたら、8時までだったか8時半までだったかと言っていた。

 看板が掲げられた、その風呂場に案内されたから、幾らか聞いてみたら、500円だった。

 湯船は一つ。つまり混浴。とうか、家族風呂の規模だ。おばさんが湯船の木の蓋で湯をかき混ぜてくれた。

 湯は茶褐色である。ラジウム泉とあるから、増富鉱泉と同じようなものかも知れない。洗い場の蛇口の栓を捻ると水である。隣の蛇口も水しか出ない。湯は出ないのだろうか。隣に継ぎ足された感じの部屋にシャワーが付いた蛇口が一組あったのでそれを捻ってみたら、湯が出てきた。

 湯船に漬かると、凄く熱い。鉱泉だから温めているのだろうが、何時もこんなにも温めているのだろうか。あまりゆっくりとは入っていられなかったから、早々に上がって身体を洗う。

 なんか家族風呂の延長だから、そこの窓枠の上にあった石鹸を使っても良いのかどうかわからなかったが、その石鹸を使わせてもらうことにする。

 頭を洗おうとシャンプーを探したら、リンスは二本あったが、やはり二本あったシャンプーの容器は空だった。

 再び湯船に入って温まっていたら、お尻のほうが熱く感じる。そこが湯の出口かと反対側に移ったのだが、やはり底の方から熱い湯が出て来ているようだ。足を少し動かしてみたら、底板と底板の間から熱い湯が出てきているようだ。こんなに熱いのにまだ湯を沸かしているのだろうか。時間が少し早めだし、道も混んでいそうだからと少しゆっくりしようとしたのだが、こう熱くてはゆっくりはしていられない。

 折角の源泉だったから、上がり湯を浴びずに身体を拭いたら、タオルが褐色になってしまった。急いでタオルを濯いだのだが、中々真っ白には戻らなかった。

 脱衣場で服を着ていたら、先ほどのおばさんが、温いですかと聞いてきた。既に風呂場から上がってはいたが、凄く熱いですと答えておいた。小生が入ったためにわざわざ追焚きをしてくれたようだ。

 ここは宿屋もやっているようだったし、偶には贅沢でもしてみるかと、夕食の提供をしているか訪ねたら、それはやってはいなかった。

 鉄錆びの匂いが残ってはいるが、身体はぽかぽかしている。なんだか不思議な温泉だった。

 夕食をどこにするか迷ったが、結局は以前入ったことのある広域農道から甲府市内に入るところの99円うどん屋に寄ってしまった。99円では済まなかったが。

 国道20号線で何時もの相模湖まで行き、渋滞の消えた中央道、首都高を通って家まで戻った。それでも、10時過ぎには帰り着くことが出来た。

 やっぱり小川山の日帰りは、少し疲れてしまった。


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作成年月日 平成17年 4月12日
作 成 者 本庄 章