小川山その12

2001年12月10日記
 また小川山に行った。今回も一人で行き、現地で仲間とおち会った。結局総勢は5人となった。

 土曜日朝7時頃出発する。道は空いている。用事が有って所沢に寄る。序だからとそのまま青梅を目指し、御岳、奥多摩経由で柳沢峠を越え、塩山から茅が岳広域農道に入る。お影で小川山まで7時間半程かかってしまった。

 途中、信州峠で雪が現れる。信州側は少し余計に残っていたようだが、通行に支障はない。若しや小川山はと少し不安が過るが、実際は廻り目平への取り付きの道も雪は殆ど消えており、通行に支障はなかった。

 2時半頃に廻り目平に到着する。仲間のテントの近くは霜柱が立っていたり、雪が残っていたりで良い場所が見つからず、少し離れた場所にテントを張る。

 その間、数名のグループがマットを背負って林の中に消えていった。

 支度を整えて、先ずはクジラ岩へ。6人ほどのグループがエイハブ船長をやっていた。多分先程のグループであろう。

 ストレッチの後、マットを借りて、いきなりエイハブ船長に触る。

 何日か前に、師匠に、小生にとっては、忍者返しやエイハブ船長は片手間に登って登れる課題ではないと言われていたので、今回は時間もあまり無いし、最初からエイハブ船長に的を絞ってみようと考えていたのである。

 アップは、どうせエイハブ船長は1級だから、またスローパーの手前で落ちるだろうから、それを何回かやっているうちに身体が暖まるだろうから、それで済まそうと考えたのである。

 靴は、ミウラC4スペシャルである。要はリソールしたミウラである。

 取付こうとすると、スポットをしましょうかと親切に言ってくれた人がいたが、落ちた時には自ら後ろにひっくり返るのでスポットはいらないと、もったいないけどお断りする。

 凹角のフレーク状のサイドのガバから右手のガバポケットを取って、左足を凹角のほぼ縦のスタンスに乗せ、左手でサイドの縦カチを取る。この時、少し奥に足を置き、壁も一緒にスメア気味に使う。続いて、右足は僅かな窪みに上げて、左足を凹角の突起状のスタンスまで上げ、スローパーを取りに行く。

 この時、ジムで先輩から、このガバポケットはアンダーで持つと身体が上がると教えられていたので、アンダーに持ち替えて見る。そう簡単にアンダーに出来る訳ではない。結構大変ではある。

 思い切り身体を引付けて身体を上げると、スローパーが目の前に迫って来る。手を出せば直にでも届きそうだ。少し勢いを付けて手を出す。スローパーの面を見ながらだから、目的の場所に手が行き、そのまま手が止まる。

 いきなりスローパーが持てた。勢いに乗って、もう一歩、リップのホールドまで手を飛ばす。止った。まずい。訳はないが、どうしよう。まだこの先シミュレートが出来ていない。高い。恐い。

 左手も一応リップに送る。そして、右足を探る。しかし、右足は見えない。右手で使ったガバポケットがある筈だが、見えない。探っていると、下から、右だ上だもう少し右だと声が飛ぶ。有り難く受け入れて、やっと足を置く。

 もう行くしかない。左手をもう少し左の効く所まで送る。

 この後は、確か右足の膝を最初のスローパーの左の一寸したリップに乗せて身体を上げていた人がいたことを思い出し、上げようとするが、膝は上がらない。左足を何とかしなければ動けない。左手を持ち直したりしてもどうにもならない。疲れて来る。このまま落ちたらまずい。危ない。落ちる体勢を作り始める。情けないけど仕様が無い。

 左手をリップの途中に戻し、クライムダウンの体勢に入る。が、こんな所でクライムダウンが出来れば、とっくに登れている。僅かに腰を落とすのが精一杯である。それでも、飛び降りる心構えは整った。多分。飛び降りたくは無かったけど。

 実際は飛び降りたと言うよりも、やっぱり落ちた。一応マットの上だった。それほどのショックは無かった。良かった。

 わぁ、若しかして、なんて考え出す。なんとなく嬉しい。

 先客は穴社員に移る。小生も触って見る。しかし、体力温存のため、本気ではやらない。ここはこうやって、それをこっちの手でこう取って、なんて言葉で教える。

 少し休んだので、また取付いて見る。今回はマットは移動されたのでない。自分の足拭きマットを置く。サイドカチを取って、右手を持ち直して、スローパーに手を出そうとするが身体が上がらない。エイと手を出して落ちる。

 きれいに着地する。この高さでも大丈夫のようだ。少し安心する。

 先客が3級の課題を探していたから、こんどはダイレクトフィンを教える。序にムーブも途中までやって見せる。やっぱり、力を使いそうな所は手を抜いたから登れない。ここで足を踏み替えてとお話しでお茶を濁す。

 何人かがトライして、何人かが登る。

 この課題、小生は前回か前々回に登った課題である。マントルを返した後もスラブがいやらしい課題である。先客も最初の人は全身のフリクションを使ってずり上がっていた。

 今回は少し長い目に休み、取付く。

 スローパーからリップ、リップから次のリップと先の過程を繰り返す。今回も足のアドバイスを受けるが、2回目だから、結構すんなりと足が置ける。

 さっきは左足を上げないでやろうとして落ちたが、今回は確実なスタンスは無かったが、強引に左足をスメアで上げ、スローパー横のリップに何とか右足を上げる。

 途中、手が外れるのではないかという状態になったが、何とか耐えてその一寸したテラス状のリップに立つ。そうすると、奥に大きなポケット状のガバがある。それを持った瞬間、やったと思った。多分にやにやしながら石の上に立ったのだろう。下から、やったー、おめでとうございます、というような言葉が聞こえて来た様に思う。

 石の上から、ありがとうございますとの言葉を返し、地面に降りる。下でも言葉を懸けてくれる。初めての1級だと言うと、おめでとうございますとまた言ってくれる。ありがとうございますと、また、にこにこしながら答える。これが1級なんだ。

 もう、ほかはどうでも良い。早く仲間に知らせたい。といって、そうやたらに登った登ったと言いふらしたくも無い。どうやって知らせようか。贅沢な悩みだ。

 以前ここでお会いしたカップルの一人が、エアー船長を登る。エアー船長とは、エイハブ船長のサイドホールドを使わないで登る初段の課題だ。生で見るのは初めてである。

 その人、やっぱりガバポケットを横に引いている。そして、スローパーの左横のリップを左手で取り、スタティックにスローパーを取って登って行く。穴社長も登っているらしい。完全に格が違う。早くああなりたいと思う。

 4時を過ぎたので天場に戻る。まだ仲間は戻っていない。

 勢いに乗ってビクターのサブウェイを触りに行く。当然一人である。実は、このためにC4スペシャルを持って来たのだ。

 少し被った所を下の石から取付き、スタートする。そして、少し遠い縦カチからもっと遠いカチを取りに行くと言うトラバース課題であるが、その更に遠いカチが取れないでいる。最近は何回かその遠いカチが取れるようにはなって来たのだが、その先がどうしても足が滑って出来ないのである。

 今回も、やっと遠いカチを取りはしたが、そのホールドが十分には持てずに落ちる。足はやっぱり滑る。普通のミウラもC4ミウラも変わらないみたいだ。寒い。このC4スペシャルで足の滑りが減るかと期待して、若しかして、サブウェイもと思って行ったのだが、期待は裏切られたので、一回で止め、すぐに帰る。

 テントに仲間が帰っている。挨拶もそこそこにエイハブ船長を登った事を報告する。仲間も喜んでくれる。

 一人寂しく、ワンタン入りのインスタントラーメンを食べた後、パンとお菓子とウーロン茶と缶入り発泡酒を持って仲間のテントにお邪魔する。

 仲間は2人、小生とで3人である。仲間は、水晶スラブ下と石南花エリアにいたようだ。

 そう言えば、今日はジムの仲間の結婚式であったことを思い出す。一頻りその話題で盛り上がる。

 多分、まだ6時頃か。明日は10時頃から動けば良いから、早く寝てもしょうがない。早くても10時までは頑張らなければ。でないと寒い最中に目が覚めてしまう。

 仲間は夕飯を食べ終わり、小生はパンを食べて、ウーロン茶を飲みながらお話しをする。お菓子を食べる。お茶をごちそうになる。

 気になっていたエイハブ船長のサイドホールドのチッピング疑惑の噂の真偽を聞いて見たら、仲間は良くなったとは感じないとの事であった。

 最近このサイドホールドが持ちやすくなったと言う人が何人かおり、そのことがある雑誌の最新号にも活字となって載っていたので、そして、易しくなってから登ったのかと少し不安も有ったので、思い切って聞いて見たのである。もっとも、先にも、そうは思わないと聞いてはいたのだが、今回将に登れた課題だったので再度聞いて見たのである。よかった。

 気が付くと、発泡酒が残っている。今回の仲間は殆ど或は全くお酒を飲まないのだ。でも、折角持っていったから発泡酒の缶のふたを開ける。もう一人の仲間も缶ビールのふたを開ける。

 ロクスノの対談の話しとか、石の人の話しとか、今や石の人は普通の人になったとか、勝手なお話しをする。そんなこんなで、やっと11時に近くなる。ちょっと、誰もいない広いテントに帰るのもいやだなぁとは思ったが、仕方が無いから思い切ってお暇する。

 寒かったけど、何とか5時まで持たせる。5時になったので、そして、寒かったので、ローソクに火を付け、湯を沸かしてコーヒーを飲む。

 ここでコーヒーなんか飲んでしまうとまだ2時間か3時間は寝なければならないのに寝られなくなってしまうとは思ったのだが、あまりに寒かったからコーヒーを飲んでしまったのだ。寒いといっても、寝袋に入ってさえいれば寒くはない。テントの中が無茶寒かったのだ。

 自動車の温度計を調べるとマイナス6度であった。そんなに寒い訳では無かったようだ。でも、4人用のテントに一人は寒い。

 ラジオを付け、ローソクもつけたまま、結局7時頃まで再度寝る。

 今回は3パーティーの5張り、8人が泊まったようだ。

 7時過ぎにやることがないから、ラーメンを作って食べる。そして、コーヒーを湧かす。コーヒーといっても当然インスタントだが。

 外は曇っている。日が差す気配が無い。おまけに雪までちらつきだす。このままじゃ寒すぎる。石なんか登ってはいられない。一人で心配する。

 8時頃だったか、自動車がやって来る。少し日が照りだす。雲もなくなってきたようだ。

 9時頃になって完全に日が照りだし、仲間も起き出す。小生も起き出してあちこち少し歩いて見る。

 さっき自動車で来た人が支度をしていたので声をかける。八王子かららしい。7aで登っている人のようだ。

 出がけにインターネットの掲示板に小川山に行くと書き込んでいた人がいたので、昨日からどの人か探していたのだが、昨日の人達は静岡からだったようだし、結局それらしい人はいなかったのだ。で、もしかして、この人が書き込んだ人かと思い切って聞いて見たら、やっぱりこの人だった。小生のこの紀行を読んでくれているらしい。ありがたい。

 少しお話しをする。やっぱり嬉しかったからエイハブ船長の話しをしてしまった。

 犬を連れた人がくる。先々週も会った人だ。少しお話をする。

 もう一人の仲間が車でやって来る。挨拶をする。そのひとはアップをするからと、また車でどっかに行ってしまった。仲間に言わせると、汚い大岩に行ったらしい。

 我々は水晶スラブ下ボルダーに向かう。

 途中、次は初段だとか冗談ともつかないことを話していたら、師匠から入口岩のラブリートラバースを勧められる。たかだか1級が一本登れたからって、早い事はわかってはいるが、正直な話、初段が射程に入ったと言う意識が芽生えた事は確かである。

 仲間は犬岩でアップを始める。でも、小生は寒いからなかなか羽毛服を脱ぐ気が起こらない。

 仲間が温度計を持参している。温度はマイナス2度を示している。朝の9時頃ははマイナス4度だったから少しは暖かくはなったが、やっぱり寒い。

 ぼちぼちアップを始める。10級の課題の近辺を登る。3本か4本登る。仲間もその辺から登っている。

 不可能スラブの左側のマントルとかクラックとかを仲間が触る。しかし、マントルの4級ですら小生にはきつい。結局真似をしても登れない。まぁ、今日は付録だからみたいな意識も何処かにあるのだろう。

 久し振りに、そして無謀にも静かの海を触る。前回はマットがあったが今回はない。

 カンテと斜めのカチで離陸して、リップを取って、手を上げて、足を上げてリップの奥を取りに行くと言う、そんなムーブでスタートするのだが、そして、その先のマントルが核心らしいのだが、最初のリップを取って足を上げる所で落ちる。多分今迄の最高到達点位までは行く。やっぱり去年よりは確実に進歩はしているようだ。穴社員が登れなくても。

 虹の入江と言う初段の課題を教えてもらう。序にムーブまで教えてもらう。仲間が実際に登ってもくれる。それも2人の仲間が。よし、絶対にここを登るぞと、心に誓う。までは行かなかったが、登らなければと思う。

 さっきアップに行った仲間が来る。そして、この虹の入江を気に入り、トライする。

 この課題は高いから、また木の根が出ているからマットを使った方が良いと言ってくれたので、持参したゾーンを敷く。薄いけど、無いよりは遥かにましなクラッシュパッドだ。

 アンダーでスタートして、ちょいカチからあとはスローパー、スローパーだ。最初のスローパーは親指が使えそうな気がしたが、巧く使えないので、普通に持って足を左に出して、次のスローパーを取りに行ったが出来ない。つまり、3手目から出来ない。

 やっぱり最初のスローパーは親指を使えるらしい。その親指のアドバイスで。仲間は登る。小生も、4手目のスローパーまで行ける。そこから身体を上げるのが核心の様だが、それが絶望的に身体が上がらない。

 エイハブ船長の時もサイドの縦カチが持てるとは思わなかったから、でも、それが持てた訳だから、これも何回かチャレンジしていれば身体が上がるようになるかもしれないとの希望的観測を信じる事にしよう。

 もう一人の仲間がマットを背負ってやって来る。結果、総勢5人になる。

 その仲間が涙岩の涙涙をやっている。そこに行って、以前やっとできたホワイトティアーズを触って見る。4級である。

 1回目はすぐに落ちる。ムーブが違うかもと、少し岩を見て、ホールドを見つけて、ポケットに足を上げて、登る。やっぱり以前よりは楽に登れたようだ。

 虹の入江をその後2回か3回位やって見たが、何れもスローパーの次のスローパーが取れなかった。

 なんかプチプチと変な音が聞こえて来る。その方向を見ると煙が上がっているようだ。行って見ると、焚き火を始めていた。即、一緒に当たらせてもらう。

 仲間が静かの海の右のカンテのプロジェクトを始める。しばし見物する。将に何にも無さそうなスラブ状のカンテだ。何回かチャレンジを繰り返すが、焚き火に当りながら繰り返すが、リップ直前で剥がされて、或は足が滑って落ちる。

 別の仲間が神無月に行ったのでついて行く。この初段は密かに二段だと言われているらしい。

 キョンだとかスメアだとか、ムーブはわかっても登れないと言う、テクニカルな課題なのだろう。おまけに力もいるのかも知れない。そのうち触る事にしようと、今回は観客に徹する。

 そこから上に上がるとそこはもう焚き火の場所であった。

 焚き火にあたっていたらまた仲間がプロジェクトをやるというのでついて行く。上からマットを背負った中年の一団が降りてくる。こんな時期にもおじさんおばさんはやっぱり来るのだと、自分の事は棚に上げて思う。

 仲間は左足モカシム、右足ミウラという変則技を使用した様だが、やっぱり足が止らなかったようだ。

 別の仲間は雨月に行くと言うのでまたついて行く。もう靴は持って行かない。完全に観客と化してしまった。

 雨月の正面のカンテに有ったスタンスになるホールドが欠けている。欠けた跡がはっきりと残っている。これで、左は登れなくなったらしいが、右はヒールフックで登れるらしいと言う事で、仲間はチャレンジをしているようだ。

 不可能スラブの方からは、時折叫び声が聞こえて来る。なかなかムーブが解決しないようだ。

 寒い、何しろ寒い。日向に温度計を置いて有っても零度であったのだから。焚き火にあたっていても寒かったのだから。なにしろ風が寒いのである。風が冷たいのである。昨年の正月前後でもこんなに寒くはなかった。マイナス2度とか3度とかよりも遥かに寒く感じる。そんななか、後半は殆ど観客と化していたから尚更寒い。

 既に3時半を廻っている。日も大分前から陰っている。帰る途中に用事もあるので、小生だけ先に帰る事にし、皆に挨拶をして先に降りる。

 今回の最大の心配事であった、車のエンジンも何とか一発でかかる。駐車場には仲間の車以外は既に無い。皆先に帰ったのだろう。

 ゲートの下に朝話したネットの友達の車が有ったが、この人も、普通の人では無いのかもしれないなどと余計な事を考えてしまうくらいに寒かった。なにしろ寒かった。川上村役場の前でもマイナス2度だった。

 帰りは佐久を6時頃に出発し、東松山迄254号線を使い、その後は関越、外環、首都高で帰った。寄居も東松山もあまり変わらないかもと東松山まで行ったが、信号も多くはなく、花園まで行ってしまえば東松山迄行っても正解かも知れない。

 11時前には家に着き、猫に餌をやって、デジカメの写真をパソコンに移して、今日も終わった。

 5時から24時だから、今日も長かった。


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作成年月日 平成13年12月10日
作 成 者 本庄 章